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記憶

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「先生、声出してくれないんだもん」
 だからつまらないと、肌を拭った養い子は笑う。
 養い子といってももうすでに彼は一人前のプロ忍者だし、庇護する対象でもない。それはそう遠くもない昔のこと。
 だが、この子がまだ忍たまとして拙いころから見守ってきたのだ。ときに触れ、小さいころの姿が蘇る。もちろん、十分頼りになる青年であると承知していてもだ。

「……きり丸。そういう話はだな」
 咳払いと共に苦言を口にすれば、抗議するように彼は頬を膨らませる。
「ねぇ、先生。俺のことどう思ってるんだよ。いい加減認めてくれよ?」
 胡坐をかいて軽く猫背になる様は、子供のころからよくする仕草。しかし腕にも腹にも、何一つ無駄はものがない。美しい、しのびの肉体をしている。
 この身体を見て、どうして認めないはずがあるだろうか。
「認めているさ」
 そう、認めている。しかし、それとこれとはまた別なのだ。

 きっと一生、小さいきり丸は自分の傍にいる。そしてそれを手放す気もない。大切な、それは思い出なのだ。
「うそつき」
 きり丸は髪を掻いてボヤく。
「嘘じゃないさ」
 でなければ、こういう関係になってはいない。手を伸ばして乱れた髪ごとぐしゃりと撫でれば、不満げな顔が少しだけ緩む。
「……うそつき」
 出てくる言葉は相変わらず。それでも大人の顔で、彼は笑った。
作品名:記憶 作家名:架白ぐら