二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

第二部 レーゲンスブルグ編1(74)であい

INDEX|2ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

「どうですか?これでもまだ…彼女を、ユリウスを捜しますか?捜して…仮に連れ戻したところで、ここに彼女のこれからの幸せと未来があるとは…僕には思い難い。先ほど僕は「彼女はロシアへ行った可能性がある」と言いましたよね。実は、レーゲンスブルグを出る彼女の最後の姿を見たのは、この僕なのです。彼女には、ユリウスには慕っている上級生がいましてね、それが、先ほども名前を出した、クラウス・ゾンマーシュミットというヴァイオリン科の男なのですが、この男もユリウスが女性であることを知っていて、しかも奴さんも又彼女を愛していたと思われます。そして、このクラウスという男は…、どうやらドイツ人ではなく、ロシア人だったようなのです。どういう経緯で氏素性を偽ってあの学校にいたのかは分かりませんが、あの日突然彼は退学届を出し、僕に別れを告げて街を去って行きました。本当に突然の出来事でした。もしかしたら、誰かに何かの勢力に追われている立場だったのかもしれません。クラウスはなかなかに人気のある生徒でしたからね、彼の突然の退学にもう学校は騒然となっていました。そしてユリウスが―、泣きながら僕に「なぜ教えてくれなかった」と訴えに来たのです。彼女の涙にほだされて…僕も黙っていることができなくなって、奴が夕方のミュンヘン行の列車で街を去ることを教えました。― 彼女は、その瞳に涙を浮かべたまま晴れやかな笑顔で、そんな僕に礼を言って、駅へと向かいました。― それが、僕が彼女を見た最後です」
― だから、遺体も出てこない。しかし杳として行方も分からない…という事は、彼女が男性としての今迄の人生を捨てて、クラウスとこの国を出た…という可能性が非常に高いのです。なぁに、クラウスはユリウスにベタ惚れだったから、今頃遠い異国の空の下、二人で存外幸せに暮らしているかもしれませんよ。

「そんな…。随分楽観的な仰いようですのね」
それまで黙ってダーヴィトの話を聞いていたマリア・バルバラが少しむくれてダーヴィトを睨みつけた。
その気の強そうな眼差しと表情が、不思議とユリウスによく似ていて、愛おしくすらある とダーヴィトは思った。

「何を笑ってらっしゃるの?」

「笑ってなどおりません」

自分より10ほど年下のこの目の前の弟の(実は妹だったのだが)友人のどこか人を食ったような調子に、すっかりペースを握られたマリア・バルバラが決まり悪そうな顔でダーヴィトに食ってかかる。

「そういう訳で、ユリウスはもう恐らく帰って来ない。…だから、死亡届を出す出さないは別として、あなたもユリウスはもういないものとして、これからの事をお考えになった方がいい」

「…分かったわ。ありがとう。ダーヴィト。真実を教えて下さって…感謝いたします」
そう言ったマリア・バルバラの表情は、何かを吹っ切ったようにすっきりとしていた。

「いえ。僕も…久々に彼女の、あの金髪の天使の話が出来て嬉しかったです。…また、こちらに伺って宜しいでしょうか?― アーレンスマイヤ家のお茶は…とても美味しかったので」

「ええ。あの子の、女の子としてのあの子の話を…また聞かせて下さいな。こんなことがあっても…それでも私とあの子は…血を分けた姉妹ですから」
少しためらいがちに、それでもはっきりとマリア・バルバラはその最後の「姉妹」という言葉を口にした。
そんな彼女の頭の切り替えの早さと、情の厚さを、ダーヴィトはとても好ましい と思った。

この日から、ダーヴィトは、マリア・バルバラの不名誉にならない程度に、しかし頻繁にアーレンスマイヤ家を訪れるようになった。
そして同時に―、アーレンスマイヤ家を度々訪れるようになったダーヴィトの行動と言動を、注意深く、執拗に監視する目がそこにあった。