Love of a silence
綺麗な顔をしていると思った。
つつ、と指を写真に滑らせて、その笑顔をなぞる。
( 仲が悪いはずなのに、何でいつも同じ枠に居るんだろう )
しかし、この男が笑っている時はいつだって、兄の顔が怒りに歪んでいる。
( 兄貴は、ちゃんと笑えるのに )
嫉妬とは違う。
単純に、悔しい。――悔しい、のだろうか。
この世で一番理解不能なのは、自分の感情だ。
それに気付いたいたのは何時だったか。何時だったか、それすらも今の話にはどうでもいい。
兄の顔を歪ませたいわけでもない。
怒らせたいわけでもない。
ただ――『気に食わない』それと同種の感情が心に沸きあがっている筈なのに、ずっと写真を見続けている。
折原臨也、
おりはらいざや、
おりはら、
「いざ、や」
唇で彼の名前を紡いで、声が鼓膜に届いて脳味噌を揺さぶる。
途端に、唇を痛いほど噛んで、血の味が口の中に広がる。
( 兄貴 )
兄貴、兄貴、兄貴、兄貴、
「幽?」
かすか?
「あに、き」
感情の消えた双眸に映ったその姿に、眩しいほど羨望、衝動。
その背中に頭を押し付けて、その奥の鼓動を子守唄に、ゆるりと瞼を閉じた。
沈黙こそが最大の武器であり防御であり言葉である
作品名:Love of a silence 作家名:ゆち@更新稀