Peacock Serenade
1.overture
昼はオフィス街、夜は歓楽街。
昼と夜で顔を変えるこの街をレディのようだとサンジは思った。
昼は貞淑な妻、夜は娼婦のように。
そんな街がサンジには居心地が良く、また自分の街だとも思った。
なのに。
そんな素敵なレディに棲む更に素敵なレディたちは、なかなかサンジの思うようにはなってくれない。
今日も今日とてキャッチに失敗して意気消沈。
それもまるで気にしていないらしいウソップと共に店へ戻ってきた。
が。
その店の入口に堂々と掲げられている写真群に、サンジは苦虫を噛み潰した。
いや、それを通り越して怒り心頭だ。
「…納得いかねぇ…」
「あ? 何だって?」
「納得いかねぇって言ってんだよ! 何で俺よりマリモが上だ、ぁあ!?」
「ししししし知らねぇよ〜、俺に当たるなよな。それよりサンジ、もうルフィの客が来てるらしいんだから、店ん中でそんな顔すんなよな?」
「わーってる。レディの前でこんな怖ェ顔するか、ボケ」
キャッチが上手くいかなかったのが不機嫌に輪を掛けた。
先月の売り上げでサンジはゾロに今一歩及ばなかった。
何故か知らないが妙にゾロに対して対抗意識を持っているらしいサンジは、先月の売り上げ発表からずっと不機嫌だった。
ここは、『club Merry』。
夜は不夜城と化すこの街に数多くあるホストクラブの中の小さな一つ。
サンジもウソップも、その店の従業員だ。
薄暗い店へ続く階段を下りると、サンジは真っ直ぐにロッカールームへ向う。
ウソップは直ぐにこの店のナンバー1、ルフィの客のテーブルへ向い、ヘルプに入ったようだ。
ロッカールームに入るとサンジは煙草を取り出し、くさくさした気分で火を点けた。
煙草で少し気分を落ち着かせなければ、大好きなレディの前にも出られそうもない。
小さなこの店のナンバー1はルフィだ。
あどけない少年のような顔をしてるくせに、矢鱈と女ウケがいい。
屈託がなく、裏表もないからこそ女性に好かれるのだろう。
それは何となく納得が出来た。
しかし、気に食わないのは次点、ナンバー2だ。
ロロノア・ゾロ。
特別愛想がいいわけでもない。寧ろ、悪い。
しかし何故かその素っ気無さやらストイックさがいいらしく、女性にモテる。
レディが大好きで常に気を配り、誰へも平等に愛を注ぎまくっているサンジがナンバー3と言う場所に甘んじているのは、全てあの気に食わないゾロのせいだ、とサンジは思っている。
クソ、と呟いて紫煙を乱暴に吐き出すと、ロッカールームの扉が開いた。
「…ぅはよーさん」
ゾロだ。
所謂ホスト寮と呼ばれる寮住まいのゾロは、いつでも遅刻ギリギリだ。
欠伸をしながら着崩れたスーツのまま、頭をガシガシと掻きながら入ってくる。
どうしてこんな奴に、とサンジはまた思わずにいられない。
「…テメェ、あんまりいい気になってんじゃねぇぞ」
「ああ?」
「何で俺が3位でテメェが2位なんだ! 納得いかねぇ!」
「…稼ぎが俺より少なかったからだろ」
カッチーン。
その通りだ。その通りだけど。
男のプライドを見事に刺激されたサンジはゾロの胸倉に掴みかかる。
「言ってくれんじゃねぇか、このマリモ野郎。俺が本気出しゃぁな、テメェなんか大差付けてナンバー3に格下げだ、クソ野郎!」
「そうか。じゃあさっさとそうしろ」
「うるせぇ! テメェに言われるまでもねぇ!」
「うるせぇのはテメェだ。顔近づけてぎゃんぎゃん喚くな。ちったぁ黙れ」
掴みかかっていたのはサンジの方なのに。
逆にゾロの腕に胸をドンと押し返される。
背後のロッカーに背中がぶつかり、ゾロの身体にサンジの身体がロッカーに押し付けられる。
逃れようと身を捩ると、その動きすら封じられた。
ゾロの、唇で。
「……んっ、…!? んん! んーッ!」
何だか良く解らない状況だ。
自分の唇が、ゾロの唇で塞がれている。
これは一般的に、キスって言うんじゃないだろうか?
「ん、ん…、…っふ、…」
喚いていたせいか、開いたまま塞がれた唇からゾロの舌が入り込んできた。
熱い舌にサンジの舌も絡め取られ、縦横にサンジの舌が嬲られる。
次第に身体の力が抜けてしまう。
膝が笑い出した。
「…いつでも追い抜けよ、ナンバー3。別に俺ぁ2位だろうが3位だろうが気にしねぇからよ。じゃな、お先」
サンジの膝が笑い出したのを見越したようにゾロが離れ、濡れた唇を舐め取りながらロッカールームから出て行ってしまった。
一足先に、フロアへと。
(何だ…?)
サンジは愕然とする。
「…ッ…クソ、腰が立たねぇ…」
ズルズルとロッカーに沿うように、サンジは床にへたり込む。
「…あの野郎…枕ホストじゃねぇのか、ホントは」
赤い顔をしながら、サンジは手の甲で唇を拭った。
to be continued...?
作品名:Peacock Serenade 作家名:瑞樹