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at Beautifultime p.m.

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「綺麗な人でしたね」と言った声は努めて平静に保たれていたが、片づけをするふりで背中を向けている表情はきっと、怒っているだろう。ナガルは見なくてもそれが分かった。
「ああ、綺麗な人だね」
「どのようなご関係で、って聞くのはダメですか?」
「もう質問してる」
「…そうやってはぐらかすんだ」
恨めしそうな呟きは、静かな室内にしっかりと響く。
苦笑しながら胸ポケットの煙草に手を伸ばすと、無言のままローテーブルの上に灰皿が置かれた。骸骨をモチーフとしたメタリックな灰皿は、確か海外公演に行って来たという同業者がいつかにくれたお土産だったが、差し出した彼自身はそれが嫌いだとたびたび言う。いかにも、と言った不気味さが嫌なのではなく、骸骨とはいえ誰かの顔に火を押し付けているようで気が咎めるのだそうだ。
初めてそれを聞いたとき、ナガルは素直に(へえ、)と思った。若者らしく時代の風潮に左右されやすい性格のくせ、古典的な優しさも持ち合わせているのだと、いたく関心したのだ。
「ねえ、出かけようか」
「今から? 夕飯の材料なら、ご心配なく、間に合ってますよ」
「そうじゃなくってさ、」
灰皿を買い換えようと思って、と言いながら振り返れば、それはもう盛大に見開かれた二つの眼球がナガルを睨んでいたので少なからずびっくりした。別に変なことを言ったつもりはなかった。
「覚えてたんですか?」
「……何を?」
「またはぐらかす!」
はぐらかしたんじゃなくて、大人の余裕ってやつを見せたかっただけだよ。と、咄嗟に下らないことを考え付いたが、ナガルは黙って車のキーを探し始めた。若い子の怒った顔を見るのも楽しいけれど、いいかげん本当に嫌われかねない。彼と出かけたいのは本当だったので、それは勘弁したかった。
憮然とした表情を作りながら、それでも常よりほんのわずかに浮き足立った後ろ姿は、さきほど見送った西之園萌絵のそれより何倍も綺麗なラインをナガルの視界に描いていたが、それも言わないことにした。少なくとも――時が来るまでは。
作品名:at Beautifultime p.m. 作家名:いまむら