手
「沙樹」
目の前の少女に向け、正臣は左手を差し出す。
「また?」
そう返しながら、沙樹は笑顔でその手を取る。
問い返すのは、彼女なりの照れ隠しだ。
「そ。いーじゃん、付き合ってるんだし」
「そうだね」
笑顔でそう言う正臣に、沙樹は肯定の言葉を返す。
彼女も彼と手をつないで歩くことは嫌いではなく――どちらかと言えば好きだった。
「それに、沙樹にはもう俺がいるのを、歩いてるやつらに教えとかないといけないし」
「?どうして?」
「沙樹が可愛いから」
聞く人が聞けば赤面するようなことを、正臣は平気で口にする。
くすりと笑いながら、沙樹は繋いでいた手を解き、指を絡めながら正臣へ言葉を返す。
「じゃあ私も、正臣には私がいるってことを教えてあげないとね」