行水
流しっぱなしの水道水はカルキの臭いが強かった、正直二度とやるもんかと思
った、同時に藤代を恨んだ。
「珍しいな」
真後ろ数メートル先からの声は渋沢か。つうかお前絶対俺の跡付けてるだろ。
なんでこう毎回毎回絶妙なタイミングで出てくるんだ。
「藤代みたいな事して。今日はシャワー室行かないのか?」
「…行くけど」
頭を上げたら顔まわりの髪がべっしゃり張り付く。うざったい。余計に藤代が
恨めしい。
「それじゃあ水の無駄使いだな」
毎月水道代を請求されてる訳じゃないだろ、なに気にしてんだか。
「そういう問題かよ」
言いながら蛇口をきつく締めておいた。いい加減カルキ臭いのにうんざりして
たんだよ俺は。さっきからずっと。
「そういう問題、だ。ほら」
我らがキャプテンにほら、なんて声かけられたらそりゃあ振り向かない訳には
いかないので。
「タオル。忘れてるぞ」
「余計なお世話」
渡されたタオルは例によって角をきっちり揃えてたたまれていた。嫌味か。嫌
味だろ。絶対嫌味だよな。温厚そうな顔してるけどこういうの実は楽しいタイプ
だろ渋沢。
「武蔵野森学園ミッドフィルター・三上亮はひとりしかいないんだ。立ち止まる
なよ。俺たちは走るんだ」
「………お前なぁ、ほんっと」
ま、いいか。
とりあえず練習終わったら藤代パシる、何が「外の水道で頭から水かぶってる
と青春っスね〜汗も涙もさっぱりってゆーか」だよ、アホだろ。カルキ臭いわ渋
沢来るわで最悪だ。