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XYロジック

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 別に、君との子を孕みたいワケではないんだ。
 そいつは、コンビニに行って来るね、と言うのと全く同じ温度でそう呟いた。それも、テレビの画面を眺めながら。俺は隣でゆったりと、穏やかに、煙草を吸いながら、同じくそれを眺めていたのだけれど、全く意味が判らなかった。は?今、なんて言った?
 別に柔らかい身体が欲しいとも思わない。声が高くなりたいとか、乳房が欲しいとも。男性器を切り落としたいとも思わないし、寧ろ、このままで居たいと思って居るよ。そいつは尚も、淡々とした口調でそう言い放つ。視線は未だ番組の司会者に釘付けのままだ。だから尚更、俺はこいつが何を思って、何を意図してそう言っているのかが、皆目判らなかった。テレビ番組では今の政治の云々を謳って居るし、別段、その話題と関連性もない。それなのに何故こいつはそんなことを言い始めたのかが、さっぱり判らないのである。そいつは続けた。
 記号化されたカテゴライズほど、面倒くさい、厄介なものってないよね。所謂後付の癖に、それに洗脳されて、凝り固まった、固定観念だ。はじめにそうであったものを、区分するために呼んだだけ。それなのになぜ、今度はそのたかが呼称に惑わされて居るのかな。そうであらねばならない、そうであるべきだ。面白くもなんともないね。だから俺は、なんとも思わない。なんとも思わないよ、思わない。
 先程淹れたらしい紅茶を、くぴりと飲んだ。その白く細い咽が嚥下するのを見て、俺は暢気にも、色っぽい。と感じた。その視線が通じたのか、そいつは、なあに。と、くるりとこちらを向いてそう問うた。俺はなんにもしていないのに、何故だか、悪いことをしたような気持ちになって、いやその。と、しどろもどろになりながら、なんで、そんなこと、話すんだ?と、訊いた。
 するとそいつはいたって普通なカオをして、別に。ただ、なんとなく。と応える。なんとなくなワケねえだろ、なんだよ。だから、なんでもないってば、ほんと、なんとなく。いーから、言え。言うもなにもないから。言えよ。うっさいな。言えって。うるさい。言え。しつこい。
 その遣り取りに、次第にイラついて来てしまって、つい、いーから言えって!と、声を荒げた。あ、やばい。と思った瞬間には既に遅く、そいつはどうしてか、ひどく傷付いたようなカオをして、ぱちり。と、1度だけ瞬きをしたその後に、ぼろぼろとまるで漫画のような泪を流した。うわ、ちょ、なんで泣くんだよ。あたふたして、混乱して、やり場の無い手で頭をぐしぐしと撫ぜる。すると意外にも(この雰囲気では払われると思っていた)そいつは大人しいままで、静かに唇を開いた。
 ふあん、だ。ふあんなんだよう。ほんとは、何時もこわいんだ。シズちゃん格好良いし、優しいし、鈍感だし、ぶっきらぼうだし、乱暴だし、自販機投げるし、直ぐ額に青筋浮かべるし、グラサンだし、料理巧いし、金髪だし、バーテン服だし、もう、なんか、こわいよ。こわい。ねえ、お願いだから、
 どこにも、行かないでね。そいつは、泪をぱたぱたと落としながら、俺の袖をきゅ、と掴んで、とつとつと、拙い口調でそう告げた。俺はなんだかもう、すっかり呆れてしまって、最後の方ほとんど褒めてねえじゃねえかとか、グラサン関係ねえじゃねえかとか、優しいと乱暴って矛盾してねえかとか、色々と、突っ込むところはあったのだけれど、もうそんなこともどうでも良くなってしまって、ただ、溜め息をひとつだけ零して、そっと、だけれどもしっかと抱き止めた。性別なんてもので、繋ぎ止める術にしようと思って居るだなんて。ばっかだなあ。こいつは、普段とても饒舌に話す癖に、こんなときばかりはひどく弱い。なんて脆い、脆弱な生き物。僅かに震える肩を擦って、もういちど、ばかだ。とだけ呟いた。
 そんな括りなんか、大して重要ではないのに。

(結局はその、アルファベット2文字の並び方なだけだろう。)
作品名:XYロジック 作家名:うるち米