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甘い水の中で1

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甘い水の中で


コロニー 「スウィート・ウォーター」その美しい名前とは裏腹に、此処は戦争避難民を収容する為に急ごしらえで作られた継ぎ接ぎだらけの歪なコロニー。
アムロ・レイはここにシャア・アズナブルが潜伏しているという情報を得て捜索に来ていた。
しかし、スペースノイドから絶大な支持を受けるシャア・アズナブルの情報を連邦軍人であるアムロに提供する者などいなかった。
アムロは安宿のベッドの上で大きな溜め息をつく。
「やっぱりダメか…。しかし、服だって私服だし連邦の名を出しても無いのにどうして俺が連邦の軍人だって分かるんだ?」
「君は自分の知名度がどれだけのものか分かっていないのか?」
突然、鍵を掛けた筈の扉の前から声がする。
アムロは咄嗟に身体を起こすと銃を構えて声のする方に銃口を向ける。
そこには探し求めていた男が腕を組んで呆れたと言わんばかりの顔をアムロに向けて佇んでいた。
「シャア!?」
「久しぶりだな、アムロ。キリマンジャロの作戦以来だからもう6年になるか?」
あまりにも呑気な様子のシャアにアムロはただ呆然と立ち尽くす。
「…貴方、なんでここに!?」
ようやく絞り出した言葉にシャアがにこやかに答える。
「君が私を探していると聞いてね。私から会いに来たのだよ。」
「会いに来たって…。」
緊張感の無いシャアにアムロは銃を降ろすと大きく溜め息吐く。
「貴方、俺が何のために貴方を探しているか知っているのか?」
「地球連邦へと反旗を翻そうとしている私を捕らえる為だろう?」
「その通りだ。」
アムロはもう一度銃を構え直し、シャアへと向ける。
しかし、シャアは動揺する事もなく不敵な笑みを浮かべる。
「君一人で何が出来ると?私が一人でのこのこ来るとは思っていないだろう?」
「…だろうな。」
アムロは部屋の周囲に何人もの気配を感じる。
「で?ゾロゾロとお供を引き連れて何をしに態々こんな所まで来たんだ?」
アムロは銃を構えたままシャアに問い掛ける。
「君をネオ・ジオンに招待する為さ。」
シャアの言葉と同時に銃を持った兵士達がアムロを取り囲む。
「ここで俺が引き金を引けば貴方の野望は潰えるけど?」
「その前に君は蜂の巣だな。」
ふんっと小さく溜め息を漏らすとアムロは銃の引き金から指を外し、銃を兵士へと渡す。
「降参だよ。」
アムロは両手を挙げてシャアに向き合う。
「なんだ。君らしくも無い。もう少し抵抗したらどうだ?」
「そんな事したって貴方を楽しませるだけだろ?」
「ふふ、楽しませてはくれないのか?」
「やだよ。ほら、何処へでも連れて行けよ。そんなに警戒しなくても別に発信機なんて持ってないぜ?」
シャアは溜め息を吐きながらも部下にアムロの身体検査をさせる。
「疑り深いな」
「君がその存在に気付いていないだけという事もあり得るからな。」
「…ああ。それはあり得るな。シャイアンで散々身体を弄られたからな。何か仕込んであっても不思議じゃ無い。」
と、その時アムロの右肩に当てた探知機からアラームが鳴る。
「…げ、マジかよ。」
「本当に連邦は腐ってるな。」
シャアは溜め息まじりに呟くと部下に確認する。
「外から電波をブロック出来るか?」
「はい。可能です。」
「よし、直ぐにブロックしろ。摘出は後でゆっくりとな。」
アムロは情けないやら馬鹿馬鹿しいやらでどっと力が抜ける。
「好きにしろ!」
そうしてアムロはシャアによって連れ去られ、現在スウィート・ウォーター内のネオ・ジオン本部にあるシャアの私室に囚われている。

「おい!コレ何だよ!」
裸足の足首には足枷が付けられ、そこから伸びる鎖は壁へと繋がっている。
「足枷だが?」
「そんなの見りゃ分かるよ!何でこんなモン着けられなきゃならないんだ!」
「流石に君を野放しにする程おめでたくはないのでな。」
不敵に笑うシャアをアムロが不機嫌そうに睨み付ける。
「それに!何でシャツ一枚なんだよ!俺の服返せよ!」
アムロは今、大きめのシャツを一枚羽織っただけの状態で(一応下着は付けているが)足枷を嵌められソファの上に胡座をかいていた。
「“彼シャツ”というのだよ。中々いいな。」
「アホか!」
シャアにクッションを投げつけるが軽く受け止められ、それを腕に返される。
そして、そのままソファの上に押し倒された。
「おいっ」
シャアはゆっくりと美しい顔を近付け、嬉しそうに微笑む。
「君をやっと手に入れることが出来た。」
「貴方のものになった覚えはないけど?」
「ここから出られるとでも?」
この部屋には窓は無く、入り口も一つ。そして足には鎖。
何よりもシャアの視線や想いがアムロを離さなかった。
アムロは一つ溜め息を吐くとシャアの首へと腕を絡める。
そして、シャアの顔を引き寄せると形のいい唇に己のそれを重ねた。
「いいよ」
「アムロ?」
「貴方のものになっても良いよ。」
アムロの言葉にシャアは息を止め驚いた表情を浮かべる。そして次の瞬間、極上の笑顔を向けてアムロに応える。
「ありがとう、アムロ。大切にしよう。」
今度はシャアからアムロに口付ける。
「…この甘い水の中でな…。」

end
作品名:甘い水の中で1 作家名:koyuho