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徒花―ADABANA―

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淡く遠い空の下。きっと、君はそばにいる。
そう思いたくて、僕らはここを死に場所に決めた。正確には、ここへ帰ろうと決めた。
 僕らは、いつまでも共にいることはできない。僕らは自分自身で袂を別れると決めたのだ。その未来に、自由などない。やがて死ぬまで一人。そして、その死にすら自由はない。それでも。


「タカ丸、人を殺すのは楽しいか?」
 いつか、君が聞いたこと。
「まさか」
 僕はそうやって答えたけれど、君は最後まで、納得してくれなかった。
「タカ丸、お前、演習とはいえ忍務をこなす様になって変わったな。お前の瞳は残忍になった」
 君はさみしそうに、けれど実直な意見をくれた。
「それって、僕が忍者に向いているってことだよね。うれしいよ、少しでも君に近付けて」
 僕は、そう言って笑ったけれど、こういう時の君は、決して笑ってはくれなかった。
「俺よりも向いているさ。むしろもう、髪結いに戻れそうにない」
 その言葉は、僕の心の弱い部分を引っ掻いて痛々しい傷をつくった。見た目だけ痛そうで、中はちっとも傷つけられないのが重症な証拠だ。
「いいよ。僕は忍者になる。君と一緒だよ」
 今度の僕は上手に笑えていなかったみたいだ。君が本気で悲しむのは、いつでもそういう時。
「俺と一緒か。ならば、帰る場所も同じで構わないな」
 そういうと、君は僕の手を引いてとある山中の森林へといざなった。むかしに手を引いてくれた母よりも大きいけれど柔らかいてのひらで。
 ついていくと、山奥にひざ丈くらいある大きな石が二つ並んでいる場所に出た。少しだけ開放的なこの場所は、風と共に南から僕へとやさしい気持ちを運んでくる。
「今日、ここが俺の墓になった。タカ丸、隣の石は、あなたの墓だ。俺たちはやがてここへ帰る。それまで、我慢しよう。生きるのも抗うのも。この苦渋とあやかしに満ちた世界で、あなたが、そして俺が生きていると信じよう。だから、亡骸を背負うな。人をむやみに殺して、それを己の生きる道だとはき違えるな」
 きっと君は、知っていたんだ。僕が怖がっていたことを。はじめて人を殺したあの日から、常にしゃれこうべの鳴く音を聴き続けていたことも。そして、君の手を握る僕の手が震えていることも。
「うん」
 ねえ、このとき僕は、これだけしか答えなかったけれど君は笑ってくれたよね。だから、僕はこの場所に縋って生きればいいのだよね。
 ここが、帰る場所だから。

 それでも。
「どこ。兵助くん、どこ」
 君はいない。ここにもいない。二つの石はもう、僕の分しかない。山も森も僕が焼いた。生きるものはすべて殺した。君の邪魔になる敵も味方も。それなのに。帰ってきた僕の手を、君は握り返してくれはしなかった。独りになって初めて、君を好きだと気付けたのに。

           了

作品名:徒花―ADABANA― 作家名:高市よみ