息が止まれば
俺は……ひっく……しゃっくりを繰り返しながら、迷信を信じることの功罪について……ひっく……考えを……ひっく……あぁ! もう!
止まらないしゃっくりのせいで、まともな思考もままならない。
「さっきからどうしたの?」
アカギが不思議そうなツラで俺の顔を覗きこんでくる。
「見てりゃわかるだろ! ひっく……しゃっくりが、……ひっく、とまらねえんだよ!」
「あらら、ご愁傷様」
アカギの奴はそう言ったきり、特に興味もなさそうに読んでいた雑誌に目を戻してしまう。
「……何と言うつれない奴……ひっく……」
「うるせえなぁ。止められないの、それ」
「止まらねえから……ひっく……苦しんでるんだろうが!」
アカギは嫌そうな顔で俺を見て、溜息をついた。
「……わっ」
「なんだ、そのやる気のない脅かし方は」
「いや、脅かせば止まるって聞いたことがあるから」
「驚かねえよ、それじゃいくらなんでも!」
目の前の人間にあからさまにめんどくさそうに「わ」なんて言われてみろ。
むしろそのやる気のなさの方に驚いたわ。
「……水飲むと、だとか……ひっく……だいずだいずって唱えると、だとか……何か民間療法……ひっく……」
「しつけえな。耳障りだ、それ。いい加減止めろよ」
「だから止められね……ひっ!?」
最後のはしゃっくりじゃない、飲み込んだ悲鳴だ。
アカギの奴が取り出したのは旧式の拳銃。
そいつを俺の眉間に据えて、かちり、と安全装置を外す。
「止めなきゃ、撃つ」
「む、無理言うな!」
叫んだ俺に、アカギは照準を合わせたまま、にぃと笑った。
「無理でも何でもやるんだよ」
「ひ、ひぃ……」
ゴクリと唾を飲み込み息を止める。そのまま、一分、二分……。
「ほら、止まった」
「……へ?」
きょとんとした俺に、アカギは安全装置を戻した銃を弄びながら言った。
「要するにしゃっくりってのは横隔膜の痙攣なんだから、そいつを伸ばしてやればいい。だから、息を止めときゃ治るのさ」
「は、はぁ……」
「それに、びっくりしたろ?」
愉快そうにアカギが口の端を吊り上げた。
「アカギにそんな知識があるのに一番驚いたよ。よくできた玩具だな、それ」
「本物だけど。弾も入ってる」
今度こそ俺は息も止まるほど絶句した。