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くるまる。
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【英仏】君に愛を告ぐ

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涙が出た。悲しいとか、辛いとか、そんな感情がぜんぶぐちゃぐちゃになって、理由なんてわかるはずもなかった。
本当は今すぐ立ち上がって、ここを離れてしまいたかったけど、生憎立ち上がる気力もない。涙に全部吸いとられたみたいだ。
女々しい自分にも腹が立つし、アーサーにも腹が立った。八つ当たりなのは百も承知だが、もうそれすらどうでもよかった。とにかくどうでもよかった。
「…………」
アーサーはなにも言わなかった。それがかえって泣けた。
「……フランシス、手出せ」
やっと口を開いたかと思えば、そんなことを言った。
「…………」
そっぽをむいたまま、黙って手を突きだす。できるだけ乱暴に。
「……じっとしとけよ」
アーサーが俺の手をそっもとる。がさごそ、ペリペリ、かぱっ。様々な音が声のあとに続いた。いったい何をしているのか。
すると、指になにか違和感を感じた。
「……?」
「いいぞ。こっち向け」
振り向いてやらなくてもよかったが、指の違和感を確かめたいという気持ちが勝った。おそるおそる、左手に目をやる。
「……え」
目を見張った。
このときを待っていたかのように、室内の照明の光をうけキラキラと輝くそれは、見紛うことなく、
「…………ダイヤモンド」
左手の薬指にはめられたリングにすっぽりとおさまっているそれは、どうみたってダイヤの指輪だった。
別の指にはめられていたら、これまでと同じように手切れ金と感じていたかもしれない。だがこの位置は。まさかこの意味を知らないアーサーではあるまい。左手の薬指の意味を。
混乱している俺に、アーサーが言った。もう、外面のアーサーではなかった。
「フランシス、俺が最初に渡した宝石はなんだった?」
「……ルビー」
「二つ目は?」
「エメラルド」
「三つ目」
「ガーネット。四つ目はアメジスト」
「あぁそうだ。五つ目はもう一回ルビーだったな。そして今回は、ダイヤモンドだ。なにか思い当たることってないか?」
考える。だがまったく見当がつかない。
怪訝な顔をする俺に、アーサーはしょうがないというようにため息をついた。
「覚えてないか? ……宝石の、頭文字を取るんだよ」
「頭文字……」
ルビーのR、エメラルドのE、ガーネットのG、アメジストのA、ルビーのR、ダイヤモンドのD。繋げるとREGARD。
英語だ。意味は、
「…………Regard、敬愛……」
アーサーを見た。俺の手を握ったまま、机に視線を落としていた。
「……俺達は、国で。しょってるものが大きい。気持ちだって、国の情勢に左右されちまう。」
アーサーが顔をあげる。それは、いつものように、自然で、暖かい笑顔のアーサーだった。
「だから、だからこそ、この指輪で、繋がっていたい。俺達は確かに通じあっているんだっていう、証明だ。」
よくみれば、アーサーの左手薬指にも同じ指輪がはめてあった。今、気付いた。
「おまえは、どうせ一時だけでしょっていうかもしれないが、俺はそうは思わない。今だけじゃなくて、これからずっと、俺はおまえと一緒にいたいんだ。」
呆然としてアーサーの顔を見つめ続けると、やがてアーサーはみるみるうちに赤くなっていった。
「…………それ、プロポーズ?」
尋ねるとさらに赤くなる。
「ひょっとして、今まで外面被ってたのも、これを俺に悟らせないため?」
「……う、うるせぇ!俺だって必死だったんだよ‼ この手のやつって中世に流行ったやつだからおまえも知ってるし、でもばれたら面白くないから、出来るだけなに考えてるかわからないように渡して…………」
「…………ふっ」
「何がおかしいんだよ!」
「いや、はは、そうか」
そうだ。コイツは昔から、分かりやすいやつだったじゃないか。
「ふふ、ははっ、はっ……」
また目尻に熱いものを感じた。勘違いしていたのも、アーサーの外面の理由に気付けなかったのも、なにもかもが馬鹿らしくて、でも不思議と心は幸せで満たされていた。暖かかった。
「……お、おい……」
再び泣き出した俺に狼狽えるアーサーに、ひらひらと手をふってみせる。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと嬉しかっただけだから。勘違いしてて、ごめんね」
まだ涙で潤む両目で左手を見た。透き通るように美しいダイヤモンドが光っている。
「……アーサー」
「お?」
「凄く嬉しい。ありがとう」
「お、おぉ」
「本当に、ありがとう…………」
幸せだ。本当に、心から。
国だとか、背負うものだとか。それを全部もってしても、コイツと一緒がいい。そんなの、俺だって同じだ。
愛し、愛される。こんな幸せなことが、他にあるだろうか。きっと、悲しいことも辛いことも、アーサーとなら乗り越えられる。
薬指にキスをしてから、俺はアーサーを何をするでもなく見た。少し驚いたように瞬きをしてから、アーサーが微笑む。
その顔に、もう外面なんてなかった。あるとするならば。
「愛してるよ、アーサー」
そう言って俺も笑った。



fin