【遠雷】
閉じた瞼の裏に 陽の光が透き通って 仄かに赤く見える
暖かな日差しが 肌を温め 洗いたてのキトンの心地よい匂いと
寝転んだ草はらの 青臭い匂いが 鼻をつく・・
本当なら 陽の光をいっぱいに浴びた麦藁の匂いの方が好きだけど
これも・・・ 悪くはないな・・・
あまりに 気持良すぎて 何も考えられない
日ごろの生活など 全て忘れ去ってしまいそうだ・・・
(そう・・? それで エレフが良いのなら・・ 私は・・・)
まどろみかけたエレフの脳裏に 冷たい声が響く
ガバッ・・と 跳ね起きて 周囲を見回す
ああ・・ 夢か・・・
遠くで雲雀の高く 細く 鳴く声がする
見上げれば 真っ青な空を 白い雲が流れて行く
大きく 息を吸い ゆっくりと吐き出す
そうだね・・・ こんなところで 留まってはいられない
けして 癒えることのない傷を負わされたのだから・・・
エレフは 身体中に付いた草の葉を パンパンと払い落し
ゆっくりと立ち上がると 仲間たちの待つ野営地に向かって歩き出した
いつの間にか 先ほどまで抜けるように晴れあがっていた青空に黒雲が湧きおこり
重々しい遠雷の音が聞こえると 雲間に青白い雷光が閃くのが見えた
そうとも・・ 我が名は【アメティストス】・・・ 死を司る 紫眼の狼
カラカラと糸車の回る音がする・・・
残酷なる運命の女神の白き糸は けして留まる事無く紡ぎだされて逝くのだ