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溺れる魚は夢など見ない

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金に火をつけて吸っているようなもんだ、とはよく言ったもんだ。
 煙を吐き出して、その行く末を見守れば、揺蕩い空気に溶けて馴染む。
 ぼんやりと滞留し、世界の色相を濁らせていく、白い煙。
 こんなもんは風に流しちまうがいい。
 閉じ込められて染みついた匂いは悪臭になるばかりだ。
 吐き出されていくのは命かねえ。
 とかくこの世はアホばかり。
 老いも若きも、男も女も。
 こんな息苦しい世界で命大事に長生きして、それが何になるのかね。
 ぽかり、と吐きだした息は、煙で白い輪を作った。
 西洋の聖人だの天使だのが頭の上に乗っけてるみてえな、能天気なわっかがほやほやと。
 あぁ、本当にアホばっかりだ。
 初めてオレに酒とタバコを教えたのは、なんと刑事だったんだぜ。
 笑えるだろう。
 まー、時代が違わぁ。
 あの頃だって別に褒められたことじゃあなかったが、健康を気遣うって建前で他人に目くじら立てて喜ぶような輩は今よか少なかったかもなぁ。
 別にいい時代ってわけでもないさ。でもまぁ、今よりは風通しもよくてもう少し息はしやすかったかもしれねえな。雨漏りと隙間風どころかふきっさらしの家みてえな風通しの良さではあるがね。
 あん時は確か十三だったか。
 よっく覚えているさ、なんて言ったって麻雀を覚えた時のことだ。
 法の番人であるはずの刑事が十三のガキにビールを進めやがるんだからひでえ話だ。しかも、賭け麻雀の御膳立てしただけで上前を撥ねようってんだから呆れたもんだ。
 あぁ、でも安岡さんにゃ世話になったか。
 一度は袂を分かったはずだったんだが、あの人がいなきゃ鷲巣巌にたどり着くのは遅くなっちまったかしれねえな。
 人と人のめぐりあわせってのはわからねえもんさ。
 あの頃のオレはやさぐれててなぁ。
 普通に生きる真似事もしてみたが、どうにも上手く出来なくて、やっぱり上手く生きられない連中と喧嘩して、やっとこさ息をしてたみたいなところがあった。
 あんなもん本当に生きてるとは言えねえな。
 死ぬってのは怖いが生きるのもまた怖い。
 とんだ臆病者だ。
 そうだ、オレは臆病もんなんだよ。
 だから、生きてる実感て奴をしっかり掴んで、世の中に飛び込んで揉まれるような勇気が持てなかったんだ。


 その話を聞くのは何度目だったか。
 赤木はオレにこんな話をしたことなんざ、もう覚えちゃいないのだろう。
 オレはいかにも初めて聞くような面で、煙草を呑み、グラスを傾ける。
 酒を煙草を、止めてやれば、お前さんはもう少し長持ちするのかね。
 リハビリだの、治療だの、投薬だの、付き合ってやればいいのかね。
 だが、お前はそんなことを望んじゃいないだろうから、オレにできるのはこうしてお前の道行きを少しばかり共に歩いてやるぐらいだ。
 あぁ、とかくこの世はアホばかりさ。
 老いも若きも、男も女も、お前も俺も。
作品名:溺れる魚は夢など見ない 作家名:千夏