二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ひさぎスパーク

INDEX|1ページ/1ページ|

 

 おれは檜佐木修兵。顔の傷がチャームポイントのイケメンな死神である。何故死神なのかというとそういう設定だからである。おあつらえ向きに鎖鎌まで持たされている。おれはそれで最初は納得したのだが、良く見れば周りの奴は皆もっとかっこいい武器を持っていて、刀身が伸びたりだとか、桜の花びらのように舞ったり、氷を出したりもする。特にあのオレンジ頭の刀は真っ黒でかっこいいし、おまけに何かかっこいい技まで出る。おれには特に技というものも設定されていなかった。そこらへんがレギュラーと準レギュラーの差なのだろうが、それにしたってどうしてこんな鎖鎌なんだ。顔に69と書いてちょっと目立つようにしてはもらったが、どうにも気に入らない。挙句の果てに、おれの華々しいデビュー戦は格下のはずの相手に根こそぎ霊力を吸われて惨敗という惨めなものであった。しかも戦闘シーンは全面カット。せめて前半戦の、おれが奴を追い込んだところまでは描いて欲しかった。さらには上司が裏切ってどこかへ行ってしまい、つまりおれは裏切りに知らず加担していたという訳だ。おれって何なんだ。

 おれは逃げ出したくなった。こんな世界はごめんだ。どうせならバンドものの漫画でスターダムに上り詰めるロックミュージシャン役がよかった、69だけに。おれは現世から来た佐渡だかチャドだかチャド・スミスだかいう男の所に駆け込んで、彼にギターを教わり猛特訓を開始、したかったのだが世界がそれを許してはくれない。隊長がいなくなったせいでおれが隊をまとめなければならなくなったのだ。さらには瀞霊廷通信の編集まで任される。こんな時くらい休刊しろよと思ったのだが、これから浮竹隊長に瀞霊廷通信を届けに行くシーンがあるらしいのでやらない訳にいかない。おのれ、おれの元上司め。かっこいいヘアスタイルしやがって。似合いすぎて涙が出るぜ。いい人だったのになあ……
 シーンはたったの一コマかもしれないが、そのために裏ではキャラ達が非常に大変な思いをしている事を読者は忘れてはならない。そして、そういう面倒から結局は逃げ出せずにきちんと仕事をこなしてしまうのがおれの憎めない所なのである。流石に原作者様には頭が上がらないというのもあるといえばある。

 その後はめっきり出番がなくなったものだからおれみたいなキャラなんて忘れられるかと思いきや、何故だか微妙に人気があった。原作者の悪ふざけ(カラブリとかいうやつ)に散々付き合ったからか、あるいはアニメのおかげか。とにかくおれは女子からも人気が高いと聞いて浮かれていた。ある時おれは同じく出番のない吉良から二次創作というものの話を聞いた。それは作品やキャラへの愛が高じて個人的な解釈の下に漫画や小説を書いてしまう行為であり、今日はそんな同人誌の大規模な即売会がお台場で開かれているという。おれを描いたものもあると聞き、どんなものかと覗きに行く事にした(とにかく暇だった)。そのスペースは右も左も女子ばかりで、こんなにも女子から人気があったのか!と舞い上がったのも束の間、それらの同人誌をよく見ておれは愕然とした。どういう訳か、男とばかり絡んでいるのだ。おれも男だが、男であるはずの吉良や阿散井や東仙隊長や六車さんや阿近さんといった面々とのあられもない姿が描かれている。これはどういう事だ。乱菊さんはどうした! あるっちゃあるようだが確実にアッチの方が多くないか!? 更にスペースを徘徊し、おれはとんでもないものを発見してしまった。なんとあの忌々しい十一番隊第五席との本が……
 『弓親×修兵本あります』
 この文字を見ておれは本気で卒倒しかけ、ふらふらになりながら何とか元の世界へと逃げ帰ったのだった。おれが右側ってあり得ないだろ。左側ならまだしも……って何言ってんだおれは。

 斬魄刀が微妙なのも、右側にされてしまうのも、ヒロイン的な女子キャラとの絡みがないのも、全ておれが中途半端にヘタレ扱いなせいだ。おれは決心した。おれは隊長になる! 海賊王になる! 火影になる! 新世界の神になる! おれが天に立つ……と意気込んでいたところでようやく出番がやってきた。お待ちかねの、破面との全面戦争だ。気に入らないからと解放しなかった斬魄刀もついに解放し、おれはようやくマトモに戦闘シーンを描いてもらい華麗に勝利した。別に十刃でもない奴くらい解放しないで勝ちたかったとか、そういう見栄ではない。かっこつけでもない、断じて違うぞ。
 その後ちょっと例の五席と何だかんだあって「またそういう目で見られんだろうな…」と沈みかけたり、出てきた怪物に呆気なくやられたりもしたが、何とか立ち上がり、おれはついに元上司に刃を向けた。隊長、おれはあんたを超えて隊長になる、なってやるんだぜ!! そして素晴らしいハーレムライフを送るんだああ!!

 ……と、思ってたんだけどな……人間そう簡単には割り切れねえモンですね。だって本当に尊敬していたんだ……いくらそういうふうに「設定」されていただけとは言え、それが俺なんだよな。おれは確かに準レギュラーレベルのキャラだ。主人公になって幼馴染と転校生の間で揺れ動く恋心に苦悩もしてみたい。しかし、おれにはおれのやるべき事があるのだ。そしてやっぱりそういうものから逃げ出せずに頑張ってしまうのがおれの憎めない所なのである。おれは決意した。今、目の前の隊長を取り戻し、そして藍染から人々を護る! おれは主人公ではない、だが、この世界に存在するかけがえのない一キャラなはずだ! 刈れ、風死―― もはや漫画界だとか人気投票だとかそういう事は関係ない、おれにできる最大限の力で、己の運命を切り開く!


 ……と、思ってたんですけどね……人生そううまくいきませんよね、例え漫画の世界だろうと。おれって何なんだ、本当。

 でも、隊長の心は少しでも取り戻せたって、思っておいてもいいですか。

作品名:ひさぎスパーク 作家名:泉流