東方『神身伝』
そこは、とある終わりを迎える直前の世界………。
空は黒く分厚い雲に覆われていて、その所為でなのか天から大地を照らしていたはずの光も、今はその一切を失っていた。
そんな世界で、何かが光を放ち、雷のごと速さで大地を駆ける。
「そっちにいたぞー。」
白銀の、見るからに重そうな鎧を纏った一人の男が、一つの方向を指差し大声で叫ぶ。
西洋の物語に出てきそうな、騎士を想わせる鎧を纏ったその男は、片手に鎧とセットではないだろうかと思う程にしっくりとくる両刃の太い剣が握られていて、もう片手には青白い炎が灯っていて周りを薄く照らしている。
だが、灯っている炎は松明などではなく、どう言った原理なのか、手から直接吹き出していて何か幻想的な物を想わせる。
「追え、けっしてにがすなー。」
「おおおおおお。」
男の掛け声を合図に、光が差し込まないはずの闇の世界に、青白い炎が無数に灯り始める。
無数に現れた青白い炎が周りを明るくする。
まるで停電になっていた街に電気が戻り、光が戻る様にして広がって行った。
しかし、青白い炎が照らすのは町並みではなく、白銀の鎧を身に纏った無数の兵士達だった。
綺麗に整列し、各々が均等な距離を取っていて、片手には両刃の剣を縦に構え、もう片手には青い炎を灯している。
彼らは全員が全員、一人の兵士が指差した方向に視線を向けていて、その姿はとても訓練され統率の取れた物を思わせる。
しかし、それと同時に何処か機械の様な、無機質な雰囲気も感じさせた。
その無数の兵士たちの中に、一人だけ白銀の鎧を身に纏わず、体の大部分が露出した、水着の様な金の鎧を纏った女性が馬に又借り周りの兵士達と同じ方向を見つめる。
長く黒い髪を後ろで束ね、腰には細身の剣が鞘に納まっている。
その彼女が一点を見つめたまま何かの合図なのか片手を上げる。
すると、その合図を待っていたかのように、周りにいる兵士達が、青白い炎が灯った手を一斉に上にかざす。
「ってぇぇ。」
細く綺麗で透き通るような声、それでいて何処までも届くような力強さを持った声で、女性が命令を下す。
ゴアアアア
その声を遮る様にして、轟音が鳴り響く。
それと同時に、兵士達の手に灯っていた炎が、その手から一斉に放れ、彼らが視線を向ける先に放たれた。
炎が放たれたその先には、雷のごとき早さで大地を駆ける一筋の光があった。
放たれた炎は、雨の様に駆ける光に降り注ぐ。
光の速度はかなりのはずなのだが、炎はそれをものしない速さで、標的である光に次々と降り注いでいく。
光は、無駄のない最低限の回避行動のみを行い、雨のように降り注ぐ炎をかわしていく。
その動きは正に雷のよ様で、ジグザグの軌道を描きながら、前へ前へと進み、兵士達から逃げるように遠ざかっていく。
それを見ていた女兵士が、腰に掛かっている細身の剣を抜く。
それに気が付いた兵士達は、彼女に道を譲るように移動し、彼女と光の間には一本の道が出来上がった。
「・・・・・・避けて・・・・・。」
剣を抜いた女性は、誰にも聞き取れないほどの小さな声で呟き、その上半身をひねる。
そして、剣で何かを貫くような構えをとると。
ググ……
力一杯にひねった体を、一気に戻し、あらん限りの力で光に向かって剣を突き出した。
ゴワァァァァ
それと同時に、突き出した剣の先から、直径何メートルも有るであろう閃光が出現し、光に向かって一直線に飛んでいく。
降り注ぐ炎を避けるのに気を取られていた光に、それを避けられる訳もなく、閃光は光を飲み込む。
ッカ
それと同時に、辺り一面を一瞬にして真っ白な光が包み込んでいった・・・・・・。
遅れて訪れる大きな爆発音、それと同時にドーム状に激しい衝撃波が発生する。
鎧を身に纏った兵士達は、その衝撃に吹き飛ばされまいと重心を落とし身構える。
女性は、そんな中、衝撃波などには気も触れず、爆発の起こった先を見つめる。
爆発音が治まる頃には、雨の様に降っていた炎も止み、打って変わって静けさが漂う。
爆発が起こった場所は、隕石でも降ったかのようにクレーターが出来ていて、その場に有った物全てを吹き飛ばしていた。
狙われていた光も同様なのか、その姿は何処にも無く、ただ其処には大きなクレーターが残るだけだった。
そんな静けさの中。
ピシィ
何かに亀裂が入るような音だけが、甲高く鳴り響いた。