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いいも悪いも家康次第

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本当に奇妙な同盟関係だ。
 奇しくも、小牧長久手でしのぎを削った者同士。しかし、標的は同じ甲斐の虎こと、武田信玄だ。
「ここは一つ。潰し合うよりも手を組まねぇか?」
 拳と拳で語り合った末、長曾我部元親と徳川家康は手を組んだ。
 古来よりいうではないか。敵の敵は味方だと。徳川十万の兵力と長曾我部のカラクリを併せれば、向かうところ敵はない。
 そして、なにより、彼ら長曾我部軍カラクリ整備部隊の興味を惹かれる存在が、この徳川軍にはいるのだ。
 西に浜名湖、東に富士の山を望む風光明媚な浜松城。その格納庫にて、その対象は巨大な体躯を休めている。それこそが戦国最強とうたわれ、家康に過ぎたるものと言われている本多忠勝だ。
 同盟を結んで以後、両軍の整備部隊は毎夜の如く一升瓶片手に語り明かした。
 片や鉄騎や富獄といったカラクリ、片や人扱いの忠勝、という相違はあれども、その整備にかける情熱については互いを認めるようになったらしい。
 その結果がこれかよ……。
 元親は目の前で繰り広げられている光景に、額をおさえた。一方の家康は得意満面の表情である。
 この日も戦においての連携を図るために両軍は共同で実地訓練を行っていた。
 当然、その中には本多忠勝の姿もある。
 ただいつもと違ったのは、彼が後退するたびにカラクリめいた音が鳴ることだった。
 ピッピッ、という音とともに、
『バックします。バックします』
 そんな音声が流れてくるのだ。
「……なんだ、ありゃ……」
 元親は唖然として呟いた。
「先日、足軽が忠勝に轢かれよってな」
 だから、つけてみたのよ。
 彼の傍らに立つ家康は、得意げに胸を張っている。
 元親が振り返れば、長曾我部軍の整備長と徳川軍の整備長が筆を片手に、頭をつきあわせて細かい文字が並ぶ設計図面を覗き込んでいた。
「た、忠勝さまが後退されるぞーっ!」
「道を開けろー!」
「こっちくんじゃねぇーっっ」
 ……余計、まずいことになってんじゃねぇかよ。
 元親は肩を落として嘆息した。
 足軽の隊列は千々に乱れ、訓練は大混乱もいいところだ。
 そんな乱戦模様の中。
『右に曲がります。右に曲がります』
 今度は忠勝の右肩装甲につけられた灯りが、人工的な声にあわせて明滅する。
「……なんだ、ありゃ」
 元親は再度、呆気にとられた。
「あぁ、ありゃ方向指示器ってやつです、アニキ」
 図面から顔を上げた部下が、元親に説明する。そして、発案者はあっちだと、徳川整備兵を指さした。
「どうだ! かっこよかろうっ」
 家康は本当に嬉しそうだ。まるで玩具を自慢するかのようではあるが、そこには多大な愛情が含まれている。
 しかし、
「……そうかぁ?」
 元親は腕を組み、首を捻った。
 理解できるような、理解できないような。整備に心血を注ぐ部下には悪いが、正直な心情を吐露すれば、理解したくない。
 彼が悩んでいる間にも、人工音声が何かを言うたびに、兵士たちは右往左往する。
「右、右っ! いや、左だっ」
「どっちなんだー!」
「だーかーらーっ、こっちくんじゃねぇっつてんだろうがーっっ!」
 巧みに進路を変更し、時には回転する忠勝により、混乱に拍車がかかっている。
「……もしかして、あいつ、遊んでないか?」
「忠勝はお茶目なのだ」
 そういう問題でもなかろう。
 家康の返答に元親はげんなりとした表情を浮かべる。だが、次の瞬間、血相を変えた。
「ぎゃーっ! アニキーっっ」
「って、俺の手下どもを轢いてくんじゃねぇーっ! お前も笑ってねぇで止めろ、家康ーっ」
 怒号と罵声と悲鳴が飛び交う訓練状況をよそに、
「長曾我部の技術は日の本一ーっっ!」
「なんの忠勝さまこそ、戦国最強ーっっ!」
 長曾我部軍整備長と徳川軍整備長が肩を組み、夕日に向かって高笑いしている。
「……お前ら……」
 元親は思わず握り拳を固めた。



 奇妙な同盟関係の前途は、一部を除き、かなり多難なようである。




(2008.1.13)
作品名:いいも悪いも家康次第 作家名:やた子