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黒いクイーンを出現させないため、
文が忘れている10年前の記憶、
「文が玖太郎の初恋の女の子の
"ふゆちゃん"であること」
「玖太郎がどんなに文を好きかということ」
は、絶対に文に伝えてはならない、と
玖太郎は精神科医のタカヤに言われた。

過去の記憶がトリガーとなり、
文の中にある「黒のクイーン」が出現し、
人を傷つけ、全てのものを破壊してしまうからだ。

(あいつはただの女子高生なのに、
爆弾を抱えてるようなものだ。
気丈に振舞っているが、
不安でたまらないに違いない。)

玖太郎は夜も文のことがきになって仕方がない。

現に時々文が眠れずに廊下で佇んでいる姿を見る。

今夜もそうだった。

「西岡。眠れないのか?」

「いいえ！トイレに起きただけですよ。
玖太郎さまはどうされたのですか？」

「俺もトイレ...おい、気になることがあれば言えよ?
ちゃんと聞くから。」

「大丈夫です！明日も早いですから、
もう寝ましょう?」

文が踵を返した。

と同時に玖太郎は思わず文の腕を掴んだ。

「玖太郎さま?」

「あ、いや...えっと...その...
抱き...しめてもいいか?」

「は?///ってなんでそんなお断りを?」

「だってお前がこの間、急に抱きしめたら
そんなことするもんじゃないって怒ったんだろーが！」

「だからって断ればいいってもんでも
ないでしょーが！
このコミュ糞(コミュニケーション下手糞)が！」

「コミュ糞言うな！.....ダメか?」

きゅうううん

文の胸が愛しさできゅっと締まった。

「?なんだ、今の音。」

「///なんでもないですよ！
なんでそんな音聞き分けてるんですか！」

「は?なんのことだよ。何怒ってるんだ?
で?いいのか?」

「...////い、いいに決まってます。」

「ん。」

玖太郎は両腕を拡げた。

「っ...」

文はその腕の中に飛び込む。

暖かい...

文は優しく暖かい、その腕の中を、
玖太郎は小さくて細くその愛しい存在を、
お互いに感じた。

「西岡...」

「...はい...」

「...一緒に寝る?」

玖太郎のその言葉に文はガバァッと顔を上げた。

「は?////いやいやいや、アナタ何言ってるんですか！
距離感おかしいですよ！だからコミュ糞言われるんですよ！
普通添い寝とか一緒に寝るとか、
同級生の男女はしませんから！」

「ただのクラスメイトじゃないじゃん。
だいたい抱きしめるのはよくて
なんで一緒に寝るのはダメなんだよ。
掃除屋の逑(つれあい)だろ?俺達は。」

「そうだけど！そうじゃなくて！///」

文はこの話の通じなさに慌てた。

「じゃあ...正直に言う。」

「えっ///」

それってまさかー 告...?

「...俺が夜1人が寂しいんだ」

「～～～～( #`⌂´)/ですよね！
そうだと思ってましたっ
玖太郎さまの好きな人はふゆちゃんですもんね！
ええ！わかってますとも！
私は勘違いなんかしませんよ！」

文は自分が一瞬でも玖太郎から
想いを告げられるかと期待して、
自分自身の道化加減に苛立った。

「? 何怒ってるんだよ。」

玖太郎のその分かってなさに、
怒るわーーーっ!!!と
声を荒らげたい気持ちを
文は必死で抑えた。

「コミュ糞男のおかげで
黒いクイーンが出てきそう。」

ボソッと文は呟いた。

「おい、明日も早い。早く寝よう?」

そう満面の笑みで手を繋ぎ
寝室を促す玖太郎をつい許し、
お互いの温もりを感じながら
一枚の布団に寝る。

(いかんいかん、笑顔で玖太郎さまに言われると
添い寝を抗えない)

文はそう思いながら玖太郎の顔をのぞき込む。

(もう寝てる！)

玖太郎はスーっと静かな寝息をたてていた。

「この人ほんとに私をぬいぐるみか
モフれるペットと思ってるんじゃ...」

そう思い文が虚しくなっていると、
「ふみ...文...顔芸やめろ」と
くすくす寝言を言いながら
笑顔になる玖太郎を見て、

(幸せな夢に私は出てくるの?)

と思い、涙が出た。

小さい頃からいつも「呪いの娘」と言われ、
人に不幸を与えると言われてきた。

でもここの生活は本当に幸せで、みんな優しい。
片思いだけど、大好きな人の腕の中で眠ることも出来る。
そして夢の中ででも自分が大好きな人を
笑顔にすることができるんだ。

それが嬉しくて幸せで。

「ん...文? どうした?眠れないのか?」

玖太郎が眠たげな目をこすりながら
半分体を起こす。

「いいえ！なんでもないです！」

文は流れた涙を拭った。

「文...こっち来い。」

再び玖太郎が腕を拡げる。

静かに文はその腕の中へ。

２人で幸せな夢の中へ。