ドグラマグラブル
近くをバサバサ飛ぶ面妖なトカゲはキラリキラリと光る眼球で僕を見下ろした。
「計画が……ソウ、計画があるんだ。キットたどりついてみせる……」
トカゲはヤハリ、キチガイを見るような眼をするばかりであった……。
「アア──完全なる空の空図……星の民が記したというソレを信じているのか。おとぎ話を信じるなどキチガイではないか……」
…………ブウウ──────ンンン──────ンンンン…………………………。
突如としてケタタマシイ音が鳴ったかと思うと、ゴウゴウと黒光りする気空挺がポッカリ空を埋めていて、僕は凝然としながら瞼を一パイに見開いた。
「なんだ……なんだ、なんだ、なんだ、一体アレハ……」
僕は唾液をグット飲み込み、空の不可思議な塊を見上げていた。何処かの首の騎空挺ダッタ。この島に来る用事など侵略以外に考えられなかった。侵略……シンリャク……。
……これはどうしたことなのだ。何という不思議な、何という精神病患者じみたことだろう。アハ……アハ……おかしいおかしい……アハアハアハアハアハ……。
ああナンデこんなにおかしいんだろう。天から降ったか、地から湧いたか、エタイのわからぬ物体が空にプカプカ……現実なのかワカラナイ……なんだと言うのだ……一体……。
隣にいるビィがアングリ口を開けて驚愕していたかと思うと、正気に返ってバッサバッサと翼を動かしながら僕に問いかけてきた。
「今……イマ……爆発音がしなかったか。……空耳ではないと思うのだ……」
「爆発だと……そのようなことが……。モ……森が……燃えてしまう……あ──ア」
僕は夢遊病じみた足取りでヨロヨロと森の中へ入った。すると甲冑を着た兵士と同時に青い髪の少女が現れ、驚愕に両目を見開いた。唇をアングリ開けた。
兵士に追われていた女の子がヨタヨタ駆け寄ってきた、
「そこの人、そこの人、そこの人、そこの人、そこの人……この島の人らしきそこの人。どうか、どうか、どうか、どうか……助けてエーッ」
……キチガイだろうか。
……本気だろうか。
いやいや。キチガイだ。キチガイだ。そんな馬鹿な……不思議な事が……アハハハ……。
「そこの人、そこの人、どうか、どうか……どうか。助けて下さい……助けて下さい……。あんまりです、どうか……どうか……どうか……」
僕がボウゼンと突っ立っていると……オモオモシイ鎧で身を包んだ兵士は威圧するような強い口調で告げた。
「サアその女を差し出せ」
「アハハ……わけがわからないぞ……アハアハアハ……どうして僕が兵士と敵対しているのか……ワカラナイ……ワカラナイ……アハハハ……アハアハアハ……」
助けを求められて放っておくわけにはイカナイ……。ヤレヤレと疲れたように首を右へ左へと振りながら僕は大きなタメイキを吐き出すのだった……。
▼ああア──ああ──アアア。
……サアサ寄った寄った。寄ってみてくんなれ。聞いてもくんなれ。話の種だよ。お金は要らない。ホンマの無代償だよ。此方へ寄ったり。押してはいけない。チャカポコ、チャカポコ、スチャラカ、チャカポコ……。
▼あ──ア──。まかり出でたるキチガイ兵士じゃ。重い鎧をカチャカチャ揺らし。腰には一振りの剣あったとさ。甲冑の隙間からこちらを見据え。邪魔するなら殺すと言ってるもんだよ。スカラカ、チャカポコ。チャカポコ。されど兵士は及び腰。訓練積めど実戦なし。人を斬ったこと一度もなし。スカラカ、チャカポコ。たもとの剣は脅しの道具。負けることなどありゃしない。スカラカ、チャカポコ、チャカポコ、チャカポコ……。
キチガイ兵士は僕を手練れだと知るやいなや、身をクルリクルリと翻してスタスタ一目散に逃げていくのだった。マッタク呆れんばかりの足の速さであった。
「アハアハアハ……さすがの剣の腕だぜ、グランンンンーッ」
奇怪なトカゲは僕の周りを嬉しそうに翼を広げてパタパタ飛ぶのであった……パタパタ……パタパタ……パタパタ……。
「ルリア、無事かアーッ」
「アア──アア──カタリナアーッ」
そこに現れた付き人らしき女性……。
……僕は、マタ、キチガイが増えたと思うのであった……。【暗転】