はじまりのあの日1 始めましたの六人
「は~い。みんなね、待ってるよ~」
「じゃあ、皆の所に案内してくれるかな」
やさしく、わたしを下ろしてくれる彼。即座に、その手を引いて
「こっちこっち」
「お、おい。ちょいまて」
有無を言わさず、走り出す。チビのわたしに手をひかれ、ツンノメリそうになる彼
「待ってたんだよ~はやくはやく、こっちこっち~」
「っげ、元気だなっ」
リビングに駆け入って、こんどは素早く、彼の背後に回る
「みんな、きたよー新人さんっほらほら、自己紹介っ」
彼をみんなの前に、強引に立たせる
「「「「うわっなんかすごそうなヤツがきた」」」」
驚きの声をあげる家族達。ただ、それぞれ反応が違う。めー姉、可笑しげ。カイ兄不安げ。レンとミク姉は楽しげだ
「おまたせ~」
プロデューサーは、のんきな声で入ってくる
「僕の後輩と新人さん。ちょっと高速(みち)が混んでてさ。遅くなってごめんね。さあ、自己紹介」
「ウッス。本日からよろしく。前から先輩(パイセン)のPROJECT、参加したかったんだけどよ。求めてる『声』見つかんなくて。バンドで歌ってたコイツ。ようやく出会えて、参加したんだ」
続けて入ってきた青年は、サムライのプロデューサーと自己紹介した。ちなみに、サムライのプロデューサー、オーディション以外でスカウトしたのは、紫の彼が最初で最後。そして彼が話し出す
「神威がくぽ。念願叶ってこのプロジェクトに参加できました。これからよろしく、先輩方。後輩ですが、歳だけはこの中で最年長の25。コンセプトは、侍心の歌い手(もののふのうたいて)。以前は、バンド活動と格闘家もやってました」
自己紹介する、彼の声。美しい低音の声。家族の中には無い、全く違う、美しい低音。応えて、わたし達の家族も自己紹介を始める
「元音メイコ、22歳。一番はじめにプロジェクトに参加してます。アタシ達、皆、遠いところで繋がってる親族なの。あ、この子。カイトはアタシのだから。だけど衣装、びびった~。相当、変なヤツかと思ったけど、ちゃんと常識人だったのね。で、格闘家は」
紫の彼の肩を、親しげに叩く姉。距離感を詰めるスキンシップ
「会えて光栄だ。始まりの歌姫。格闘は引退。歌い手に専念。元々、バンドの方が好きだったし。まあ、この格好。変なのと思われてもしかたないな。心配するな、BLの気は、あんまりない」
サムライは苦笑いで返す
「はははは、確かに『腹を切れぇ』とか言われるかと思ったよ。オレ継音カイト、21歳。よろしくね。これからたくさん歌っていこう。年の近い歌い手でよかった。友達になれそうで。ああ、め~ちゃんはオレのだからさ。なんで、格闘家やめたのさ」
「よろしく。優しそうな先輩でなによりだ。友達になってくれ。分かったわかった、手は出さない。先輩方の歌聴いてたら虚しくなってさ。人、潰して俺が生きて。何やってんだって。人、生かしたい、癒やしたい。そう思って」
微笑んで、握手をかわす、兄と彼。握力が強かったのか、「痛っ」と声を上げるカイ兄。駆け寄るミク姉
「わたし、初音ミク11歳です。わ~なんだか楽しそうな人でよかったぁ。仲良くしてね~。ミクとも歌おうね~」
彼の手を取り、ぶんぶんと上下に振る
「よろしく、初音さん。あなたの歌を聴いて、俺は歌い手になることを決めたんだ。会えて嬉しい。是非俺と歌ってくれ」
「初音さんなんて言われると、なんかくすぐったいよ。ミクでいい」
笑顔で応じる彼。ミク姉めずらしく照れ照れしながらそう返す。めー姉も
「そ、他人行儀はナシっ。呼びやすいように呼んで。神威君。君が最年長なんだから」
「いいのか本当に」
「いいのっ、気楽にいきましょう」
「心得た、メイコ」
少し緊張していたのだろう。安堵の表情になる彼
「そうだよ~今日から、リン達、家族なんだから。鏡音リン8さい。いっぱい、いっぱい歌おうね」
再び長身の彼に、飛びつきながら、自己紹介
「元気いっぱいだ、リン。よろしく、かわいい先輩サマ」
わたしを抱き止め、撫でてくれながら紫の彼。至近距離で、彼の瞳に射抜かれた。うす青色の優しい瞳に。彼自身に。わたしは引き込まれた。かわいいとの一言に、わたしの心臓が跳ねた。そこに、弟が近づいて
「ぼく、鏡音レン8さい。兄さんが増えてうれしいな。いっぱい歌おうねっ。よろしくがく兄」
まだ、自分をぼくといってたレン。両手を差し出し、握手をかわす
「ありがとうレン。俺も弟ができたみたいで嬉しい。たくさん歌おう。ところで、リンレン、似てるけど姉弟(してい)なのか」
片膝をつき、わたしを肩に乗せ、レンを片手で撫で回しながら、紫の彼。誰となく聞く
「そうなんだ、神威サン。双子の姉弟。よく、リンが姉、レンが弟だってわかったね」
「ああ、双子だったのか。似ているとは思ったんだ。背格好でなんとなく姉弟かなと」
「神威くん。初見でリンとレンの見分け、そこまでつく人はじめてよ」
そっくりで、プロデューサーにも、家族にさえも。間違えられた、あの頃のわたし達。めー姉の問いに
「ああ、似てはいるけど、全然ちがう」
即答する彼
「じゃ、シャッフルタ~イム。二人とも、混じって混じって~」
「わ~」
ミク姉の掛け声でグルグル回って、混じるわたしたち。めー姉が、彼を目隠し
「はいど~っち」
目隠しをとく。彼は躊躇することなく言った
「こっちがリン。そっちがレン」
正解だった。家族もプロデューサー二人からも、感嘆の声
「なんだろう、姫と王子ってカンジ」
「はは、神威サン、その例えわかりづらい」
「すまん、自分でもビミョーだとは思うが、他に、なんともいえん」
始めのハジメ。神威サンと呼んでいたカイ兄と、彼とのやりとりに、わたしの鼓動が高まった
落ち着きがないリン
年中元気なおてんばリン
トラブルメーカーお騒がせリン
すくなくとも、姫なんていわれたことは、生まれてからこの日まで、一度もなかったから。賑やかに一通りの自己紹介が済んだ後のこと
「神威君、あなたの部屋は、二階のドアが開いてるところね。送られてきた私物は、運び込んであるから。これ、鍵」
「部屋、住んで良いのか、ここに」
めー姉の言葉に、目を剥く彼
「当たり前だよ神威サン。他に何処があるのさ。あれ、プロデューサーさん達から聞いてない」
「ああ。近くで部屋でも探そうかと思ってた」
彼と兄の会話。歌い手は、基本このマンションで生活する。縁(えにし)を深めるため。苦楽を共にするため。そして、いつでも歌えるように
「な~に水くさいこと言ってんの神威君。荷物も運び込んであるからね。さっ着替え終わったら、又このリビングに来て」
プロデューサー二人が帰宅した後、めー姉が彼に告げる。プロデューサーは、基本、歌い手と一緒に生活しない。先入観を覚えたくない。与えたくもない。何より、歌い手同士で交流してほしい、というのが理由だ
「すまないメイコ。じゃ、荷解は明日かな」
「リンが案内してあげる。こっちだよっ」
「ありがとう、リン」
彼の手を引いて二階へ向かう。彼が使うことになる部屋の前へ
「早く着替えて、一階来てね」
「メイコも言ってたが、何かあるのか」
作品名:はじまりのあの日1 始めましたの六人 作家名:代打の代打