17:50 雨
音と、匂いですぐに分かる。
窓を見やると景色が灰色がかっていて、霞んでいた。
起き抜けのぼんやりした視界で窓に近づき、熱っぽい額をひんやりとしたガラスにくっつける。
(傘を、忘れた。)
色とりどりのそれらが、いくつかゆらゆらとゆれながら校門を目指している。
赤、青、緑、透明。放課後にしては人数が少ない。
空はぐっしょりとした灰色で、時を教えてくれそうになかった。
(今 何時だろう)
6時間目が終わってから突っ伏してから記憶がない。
どれくらい寝てしまっていたのだろうか。
時計を、探す。
廊下が軋む音と、教室の扉が開く音。
「壱、」
黒板の上の時計は、5時50分。
「まだ居たのか。帰ろう。」
少し長めのくしゃっとした黒髪で、おだやかな顔つき。
扉には、二つはなれたクラスの友人が立っていた。
「たぬま。」
ぽつりと名前を呟くと、田沼は苦笑しながら教室に入ってくる。
窓際から少し離れた自分の席に戻ると、彼は隣の椅子に座った。
机の上にはまだ、教科書とノートが散らばっている。
「6時間目から、寝てた?」
「うん。」
「そっか。」
少し言葉を交わして、片付けに入る。
文房具をペンケースに入れて、真っ白なルーズリーフを元に戻して。
教科書をそろえて、鞄に入れる。
一息、ついた。
沈黙。
雨の 音が響く。
横を見ると、隣の彼はぼんやりと黒板を見つめていた。
まっすぐな黒い瞳、に 室内ではいっそう色白な 顔。
輪郭。
「かなめ。」
彼の名前。田沼、要。たぬまかなめ。
かなめ。
私の 友人。
こちらを振り向いた。目が合うと、少し目を見開く。
視線をおとして頬杖をついていた、その手を両手で握った。
「かなめ、かなめ。」
握った手を額にくっつけながら、名前を呟く。
呟く。
吐き出すように。
「かな、め。」
眠っていた冷たい手に、わずかに温度の違う、手。
名前を呼ぶうちに、胸がじくじくして、目が熱くなった。
息が苦しい。
「大丈夫。」
彼のもう片方の手が、背中に回った。
広い、骨ばった手が撫でる。
「かなめ かなめ かなめ。」
嗚咽交じりになった自分の声を、酷く遠くに感じた。
雨の
音が
する。