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大切なもの(コレットは死ぬことにした)

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「ん...ふ...」

合わせた唇から吐息が漏れる。

ハッとしたように、ハデスは急に
その愛しい唇から自分のものを離した。

「.....」

すまぬ、と謝る方が傷つける。
咄嗟にそう思って、言葉を失くした。

ふとコレットの顔に目をやると、
顔をゆでダコのようにして
目に涙を滲ませていた。

「あ...」

「そんなに嫌だったか?す...」

すまぬとやっぱり言おうとして

「ううん!嫌じゃないです!」

「嫌じゃない自分にびっくりして...
むしろすごく...すごく嬉しくて...」

そう言いながら俯き、
コレットは全身の毛穴から
湯気を出しているように照れていた。

「ふ...」

そう含み笑いをしつつ、ハデスは
ぎゅうううううっとコレットを抱きしめた。

「ハデッハデス様!また酔ってるんですか?」

「ふ...酔ってる?そうだな、酔ってるかもしれぬ。お前に。」

「えっ!」

意外なハデスの言葉を聞いて、
コレットは自分の耳を疑った。

ハデスは少し体を離し、コレットをみつめた。

「お前のことが可愛くて仕方ないのだ。
お前が可愛いことを言うから悪い。」

「えええっ////」

「離したくなくなる。
思わずキスをしてしまったではないか。」

ちょっとむくれたようにハデスに言われて、
よくわからないけど自分の行動が悪かったのかと
「...ごめんなさい...」と謝り、
コレットはしゅん、となった。

「冗談だ。謝らずともよい。
私がお前の可愛さに負けたのだ。
ふ...冥府の王ともあろう者が弱点ができてしまった。
絶対これは他の者に知れてはならぬな。」

そう言ってハデスは優しく微笑み、
今度はコレットの頬にキスをした。

「ご...ごめんなさ...」

「謝らずともよいと言っておるだろう。
これはアレルギーと違って
幸せなことなのだから。」

以前ハデスは、
太陽アレルギーで全身に蕁麻疹ができ、
他の者には知られないよう、1人でその痛みと
苦しみに耐えていた。

薬師であるコレットは
その症状を治し、徐々に心を通わせたのだ。

「私も今大切なものにキスをして願った。」

「え? いつ? ハデス様の大切なものって何?
ケルベロス?」

「...ばかもの。お前に決まっているだろう。」

コレットはその言葉に恥ずかしくなって、
再び顔を赤くして俯いた。

俯いて顕になったコレットのつむじに
ハデスは優しく唇を寄せ、

「大切なものにキスをして願えば叶うのだろう?
だからお前の生涯ずっとそばにいられるよう願ったのだ。」

コレットは、ハデスが自分と同じことを願っていたことが
信じられなかった。

「ほんとに...?」

信じられないと思うのと同時に
頬が高揚して嬉しさも抑えられない。

「お前は神の言葉を疑うのか?」

「だってハデス様、いつもからかったりして
私、勘違いしそうになるもん。」

「む、私がいつからかった?」

「だって!この間のディオニソス様の宴会の時だって!
その...///...あの...今宵この娘しか見えぬとか...」

自分で回想して恥ずかしくなり、
声がどんどん小さくなる。

「ああ。あれはからかってなどおらぬ。
なんだ、お前はあの言葉を女神達への牽制で
建前で言ったと思っておるのか?心外だ。」

「えっ...///じゃあ...」

ふっとハデスは零れるような笑みを浮かべた。

「あの時も今も、私は本当のことしか言っておらぬ。
私の目にはコレット、お前しか映っておらぬぞ?
お前が地上にいて離れていても、
ついお前のことを考える。
裁判から帰った時お前が冥府にいると
私は酒を飲むより風呂に入るより
何より癒されるのだ。」

コツメが冥府に来て、嬉しいと思う反面、
自分だけずっと冥府にいられないことが
寂しいと思っていた。

でも同じように自分に会いたいと思ってくれる、
そんな喜びは薬師で患者に求められることとは
また違う、心から安堵する喜びだった。

「ハデス様...それは薬師の私には
最高の褒め言葉だわ。」

「むぅ...薬で治療し他人を癒すのはいいが、
お前の存在そのもので癒すのは
私だけであってほしいのだが。」

「ハデス様、それって...やきもち?」

「やきもち...? そうか、これが嫉妬か。
ふふ...長く生きてきたが、初めて嫉妬した。」

「えっはじめて?」

「コレット、お前はいろいろと
私に教えてくれるな。」

「???」

再びハデスはコレットにくちづけをした。

「ハデス様だって...私にいろいろ教えてくれるわ。」

「そうか...?」

「こんな気持ち...キスだって...はじめて」

「っ////」

何百年と生きているくせに
少年のようにハデスは喜び、照れ、
そして愛しさを抱きしめた。

永遠の命を持つものと限りある命を持つもの、
同じ時を過ごせるのは一瞬であるけれど
この時間が少しでも長く続けばいいと
大切なものにくちづけを繰り返し、
願うハデスだった。