殺したい程なんとやら
「あ?」
「俺がシズちゃんの事本気で殺そうとして、それは可能だと思う?」
今まで散々急所目掛けてナイフを振り回してきた野郎が今更何を言っているのだ、と不審そうに顔を上げた静雄の額を手で拳銃を形作った臨也の人差し指が軽く突く。少しばかり湿っぽさのあるベッドの上であっとしてもこの二人の間で睦言が交わされる筈も無く、人を小馬鹿にしたような笑顔の黒髪の男は昨日自分が付けた傷痕に爪を立てた。常人よりかは鈍くとも痛覚はあるようで、特に何かやり返す訳ではなかったが二人が揃うと通常装備になる眉間に寄せられたシワを更に深くした。
「俺の持ってるナイフじゃこの身体はあんま傷付けらんないらしいからさ、何なら良いかなあって。」
「…首とか目とか、つうか頭なら流石に人間死ぬだろ、銃とか。」
今日はたまたま沸点が高いのか機嫌が良いのか、珍しく怒りを示さずにごく普通の物言いでごく普通の解答をした静雄が身体をなぞる白く細い指に視線を送る。ふとつまらなさそうに相手の金髪を眺めた臨也は、そういう事ではないのだと呆れたように首を振った。まるで何を考えているのか互いに理解し合えないししようともしない為、正直意思の疎通は余程単純な事柄でない限り不可能に近い。しかも何やらまた面倒な事を考えているであろう臨也などと云うのは静雄にとって訳の分からない存在となって当然だ。一方臨也にしてみれば逆もまた然別なのだが。
「お前の言うことは一々遠回しで面倒臭ェんだよ、はっきり言え、はっきり。」
「シズちゃんは行間を読むのが不得意過ぎるよね。」
「読むも何も、無ェもんは読めねェだろが、」
「そんな事言ってないでもっと日本人らしく生きなよ、腹芸で生きる民族らしくさあ。」
腹芸、という言葉を聞いて静雄が腹踊りを思い浮かべたのはこの際まあ置いておくとして、臨也にせよどうせ最初から理解してもらうつもりも毛頭ないから理解されなくとも仕方が無い。薄く笑みを浮かべて手を伸ばし愛おしむように喉仏を指の腹で愛撫したかと思うと、首を絞めるが如く掌を喉元に絡めた。もはや相手に対する愛情なのか憎悪なのか、他人にも自分にも知り得ぬ事柄なのだろう、此処まで来てしまえば。
「平和島静雄、っていう世界で一番忌まわしい存在をね、この手でどうにか出来るっていう事実が欲しいんだよ。」
「…本当はお前かなり俺の事好きだろ。」
「なにそれ自意識過剰。」
自己愛も程々にして、と明らかに馬鹿にした体で呟いた臨也を気にするでもなく、躊躇いの無い動作でシーツに細い肩を押し付ける。同時に掛けられていた手が解けて静雄の数少ない急所であろう場所が露わになり、思わず臨也の喉が微かに渇きを覚えたようだった。逆転した形勢の中で今度は静雄が臨也の真っ白な首筋に獣の様に噛み付き、うっすらと歯型を残す。
「安心しろ、少なくともテメェだけには殺されてやらねェよ…俺がテメェを殺すのが先だ。」
「え、まだスるの?もう二回したのに、」
「…空気読めよお前。」
「あはは、シズちゃんに言われちゃった。」
わざとらしい乾いた笑い声を上げながら赤い瞳を細め、言葉とは裏腹にあたかも挑発すように足の裏で静雄の太股をなぞらせる。気まぐれな猫とその飼い主…というよりは猫と気の合わない短気な犬は、その名の通り理性よりも本能に身を任せて重なり合った。
殺したい程、(なんとか余って憎さ百倍
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うざい位ラブラブだなこいつら!と書いてる本人が一番むずむずしました。本当に短文ですみませ、ん。
作品名:殺したい程なんとやら 作家名:すぎたこう@ついった