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第二部17(90) 妨害そして決意

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ー これは…どういう事なんだ⁈

マリア・バルバラを見舞ったダーヴィトは、彼女のその酷く面やつれした寝顔に、愕然とした。

ベッドに臥せているマリアの寝顔は顔色が酷く悪く、頰は見る影もなくこけ、まるで亡骸が横たわっているようだ。

ー いくら重症だったとはいえ、この予後の悪さは、明らかにおかしい。回復どころか、怪我を負ってから益々衰弱してきている。

ダーヴィトはかつて自分も負った怪我を思い起こす。
あの時も全身打撲に骨折、そして右手の指には生涯残る後遺症を残したが、怪我そのものの回復は、若く健康だったために、一月も経たぬうちに、回復したものだった。
心の傷が癒えぬまま身体だけは回復していく自分の肉体の健全さを当時は恨めしく思ったものだった。

ー まだまだ若く、しかも健康だったマリアが、こんなに回復に時間がかかるなんて…。まるでこのやつれようといったら…、毒でも盛られたようではないか…!

「毒⁈」

そこでダーヴィトは、自分の脳裏にふと閃いたこの突飛な想像に、思わず小さくその言葉を口にする。

ー まさか…。でも。確か彼女の両親は二人とも突然息を引き取ったと言ってはいなかったか?それに…以前マリアが、ヴィルクリヒ先生が屋敷を訪ねて来た時に、突然昏睡した事があったと…言っていた。…でも…、もしそうだとしたら、どうやって、何に毒を盛る?食事?いや、使用人の大勢いる中で毎食毎食食事に毒を盛るのはリスクが高すぎる。

ふとマリア・バルバラの服用している薬瓶が目にとまる。

ー もしや…。でも、毎食毎食、食事に盛るよりも遥かにリスクが少なく合理的だ。

ダーヴィトは思いついて辺りを物色する。

ー これがいい。

ドレッサーの上のオーデコロンの瓶の中身を花瓶に開ける。

空いた瓶に薬の中身を移し、空になった薬瓶には代わりに水差しの水を補充しておく。

「来て…いたの?」

そのタイミングでマリア・バルバラが目覚めた。

「ああ。…よく寝ていたから…そのまま君の寝顔を眺めていた」

「いやな…ひと」
浅い呼吸の中で、マリア・バルバラが微笑んだ。

「やっぱり、君とユリウスはよく似た姉妹だと思ったよ」

「そう…」

「レーゲンスブルグ一の、美人姉妹だ」

「ただし…呪いつき…ね」

フフ…。

「ねえ…ダーヴィト。なんの匂い…かしら。香りにむせそうだわ」

「雨が近いから…、きっと活けてある花がよく香るのだろう。…ゲルトルートに花瓶を下げてもらおう」

お茶を運んで来たゲルトルートに、花瓶を下げるてもらおうとした、その時、ゲルトルートの右腕に巻かれた白い包帯が目に飛び込んで来た。

「どうしたの?これは」

驚いたダーヴィトに

「庭へ出たときに、番犬の鎖が外れていたようで…。とっさに頂いた催涙玉を使って、命拾いしました」

とその時の様子を簡潔に説明した。

「恐ろしいこと…。番犬は…そのあと全て殺処分させたわ…」
ー ゲルトルート、ご苦労様。それを持って下がって頂戴。

ゲルトルートは花瓶を抱えて一礼すると、マリア・バルバラの部屋を下がった。

「マリア、ゲルトルートの事は、事故じゃない!誰かは分からないが、故意的に彼女をねらったものだ」

興奮して思わず激昂したダーヴィトに、

「ええ…。そうね。犬を放ったのは、ヤーコプでしょう。そして…、それを命令したのは…、恐らく、アネロッテ。その時の詳しい状況を…、ゲルトルートから聞いたわ。ヤーコプが落とした軍手を…庭で馬車の整備をしているヤーコプに届けるよう、他の召使いから頼まれて庭へ出たら、犬たちが襲って来たと…言っていた。校長先生に、いくらなんでも…こんな計画は…無理だわ。これは、うちの使用人たちが…、犬たちを怖がって…庭へ行きたがらない事…、それから、そういう厄介な用事は…、みんなゲルトルートに押し付ける事を…分かっている者の…仕業…よ」
ー それにね…、この間、私が…寝ている隙を見計らって…、アネロッテが…、私の部屋を…物色に…来たわ…。財産関連の…ものは、全て…執事に預けてある…と言ったけど…。

「…ゲルトルートには、今さらだけど、この事件から手を引かせよう。このまま僕らと行動するのは危険すぎる」

「私も、そう言ったのよ。…このままここにいるのは危険過ぎる。私から…他のお屋敷へ、口を…きいてあげるから、今すぐアーレンスマイヤ家を…出て行きなさい…と。それから…、あの子の恋心に…つけこんで、今まで危険な目に遭わせたのは、卑怯だと…思ったから、あの子にも…打ち明けたわ。ユリウスは…私の弟ではなく…妹だって。あの子は…本当は…女の子だったんだって。これであの子も…この事件からも…手を引くだろう…と」

「…そうしたら?」

ダーヴィトの問いに、マリア・バルバラは小さく笑って首を横に振った。

「私を、見くびらないでくれって…。そんな事は、とうに知っていた…と。ユリウスが…女の子だというのは、とっくに知っていたと。…ユリウスが…まだ夜明け前の…暗いうちに…こっそりと、月のものの…始末を…していたのを…何度か見た…って。そうして…可哀想なあの子は…、声を…殺して、泣いていた…と。それを目にした時は…ショックだったけど…、その様子が…あまりに痛々しく、切なかったから…黙っていようと決意…したのですって。やっと…私に…打ち明けてくれましたか…って言われたわ」

ー そう…あの子ね。この役目を引き受けたのは…、もちろん…ユリウスの…ためでも…あったけど…、あなたに…、「僕らは同志で対等だ」と言われたのが、嬉しかったから…ですって。いつも役立たず…と罵られ、馬鹿にされていた…自分の事を認めて…くれたのが…嬉しかったから…ですって…。本当に…バカな…子…なんだから。こんな、なんの見返りもない事の…為に、命まで…かけるなんて…。

途切れ途切れに、苦しい呼吸の中でそこまで話すと、マリア・バルバラはフウと大きく息をつき、目を閉じた。

「そうだったの…。分かったよ、マリア。後は僕に任せて。長居して悪かったね。…もう休んで」

ダーヴィトはそう言うと、マリア・バルバラの額にキスを落とし、彼女の部屋を出た。

ー アネロッテが…、第二の勢力が動き出した…。もう一刻の猶予もならない!

アーレンスマイヤ家を出た、ダーヴィトはそのまま警察へと向かった。