intermezzo ・白い花~未来への贐(はなむけ)
おまけ~《ピー助との一夜》
ピーピーピーー!!
「わかったわかった・・・怒るなよ・・・オレだって一応言ってみただろ?泊ってけって・・・結構思いきったんだからな・・・うん、本気で言った。あいつを、抱きしめてやりたくて・・・力いっぱい。けど・・・それだけじゃダメなんだ・・・」
チッチチ!
「なんだよ・・・別にそれ以上どうこうなんてそんなこと・・・ああ!でも頭から消えないんだよ・・・あの日見ちまった、白くて透き通るような柔肌の二つのふくらみが。しっとりと赤みがかった唇、黄金の髪からふわりとそよぐ甘い匂い、心融かすような笑み・・・どうしようもなくあいつは女で・・・それを知った瞬間全てが腑に落ちたのは・・・もうとっくにオレはこんなにも心奪われてたから・・・愛しいあいつの全てが欲しくて・・・苦しいんだ」
昼間の教室でのモーリッツとあいつの一件、成り行き上割って入ったオレだったが、モーリッツに殴られ呆然とするあいつがいたたまれなくて見てられなかった。
―そうだ・・・わかっただろ?あんな奴でも男で・・・おまえとは違うんだよ・・・無茶すればするだけ、おまえの鎧はどんどん脆く剥がれ落ちて行くんだぞ?オレを見ろよ・・・もしおまえが縋って来たならオレは・・・。
授業が終わってさっと教室を出たあいつの後を追った。父親を亡くし実質あの家の当主となってしまったということが、更にどれだけあいつに重くのしかかっていることだろうと考えると、放っておけなかった・・・オレにしてやれること、言ってやれることなんか何もないのにな。
「案の定、あいつは目の周りを赤くしておまえに話しかけてたろ?自分が歯痒くてたまんなかったよ・・・ありがとな、あいつを慰めてくれて。親とはぐれて生死のギリギリを彷徨うかもしれないおまえに、自分を重ねたのかもしれないな。あいつはさ、本当は笑顔の可愛い優しい女の子なんだよ・・・なのに肩ひじ張って笑み殺して顔強張らせて、いつもギリギリのところにいて・・・」
ピー助と接するあいつは本来の姿に戻っている気がして・・・そんなあいつと二人、ピー助への思いを共有していることがオレはなんだかたまらなく嬉しくなって、つい「オレとこいつが親代わり」なんてなに気なツガイ発言をしちまった。
あぶねえ・・・あいつは気に留めていなかったみたいで助かったが。
「中途半端だよな、オレ・・・このままじゃいけないことはよくわかってる。どうすることもできないんなら、一切関わらなければいいし・・・あいつのこと、考えなければいい。でもダメなんだよ・・・心が言うこと聞かないんだ・・・たまらんぜ・・・」
チュチュン・・・
「あいつ、オレのことじっと見てただろ?オレのベッドにチョコンと座ってさ、可愛かったよな。たまらないシチュだったよな~、ああそうだよ!おまえがいなかったら押し倒して・・・ダメ、だよな、やっぱ・・・」
ピピ・・・
「ハハ、同情してくれてんのか?おまえと会えてよかったよ。あ~、恩返しなんかに来なくていいぜ?いろいろ聞かせちまったから、一宿一飯の恩義はチャラってな!」
ピピ?
「さて、寝るか。明日はオレとあいつで母ちゃん探してやるからな、今夜は安心して寝るんだぞ」
―あいつの笑った顔、明日は見れるかな・・・せめて心では、おまえを抱いて眠ろう・・・おやすみ。