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番外編 光の当たる道

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「今日が拘留期限の最終日だ。結局最後までダンマリか。あんた、なかなか頑固だな…。
結局あのアーレンスマイヤ家当主傷害事件は、証拠不十分で不起訴。それからアブラハム・ウント・レヒナー商会事件も…因果関係分からず、証拠不十分でこれも不起訴だ。…あんた、これで自由放免だ。ま、放免になっても…ゼバスの校長の職は解任されてるし、帰る場所なし…か」

「…」

「なあ、あんた。あのゼバスの学生の兄ちゃんから聞いたけど、エレオノーレ様の実の父親だったんだってな。俺はな…、あのエレオノーレ様に、若い頃一方ならぬ世話になったんだよ。俺にとって…彼女はまさに神様だった。…だから、あんたの気持ちはよーくわかる。最愛の者を虫けらのように踏みつけられて、手をこまねいて泣き寝入りはできないわな。それは、俺も一緒だ。だから、あの事件から30年間、ずっと真相を追い続けている。だけどな…あんたがいつまでもそうやって憎しみに囚われていたら、きっと天に召されたエレオノーレ様が、あんたの娘がきっと悲しんで心を痛めていると思うぜ?憎しみを、怒りを捨てろとは言わない。そんなことは生きている限り不可能だ。…だから、あんたのその憎しみと怒りを、俺に寄越しちゃもらえねぇか?俺があんたの憎しみと怒りを全て肩代わりして背負ってやる。その恨みは必ず俺が、一生かけても必ずあの事件の真相を明らかにして、あの一家の名誉を回復して、晴らしてやるから。…あんたは、もうその憎しみを手離して、光の当たる道を行きなよ。…まだ、血を分けた肉親が…、孫息子がこの世にいるんだろ?…なあ、先生。あんたに黙ってで悪いけど、ちょいとお節介をさせてもらったぜ。この街を出奔したあんたの孫息子の消息を…、突き止めさせてもらった。それでエルンスト…今はヘルマン?だったか?に、あんたの事を話したよ。…奴さん、あんたの身柄を引き取りたいってよ。だから…今日もうすぐここにあんたの事を迎えに来るはずだ。そうそう、奴さん駆け落ちした相手…あのアーレンスマイヤ家の若後家さんとの間に子供が出来ててさ、可愛い女の子だったよ。名前は―、エレオノーレって言うんだってさ」

それまで、うつむいたまま刑事の話を聞いていたハインツ・フレンスドルフが初めて顔を上げた。

「…エレオノーレ…」

「ああ、そうだ。灰色の瞳の…生まれたばかりの赤ん坊だけど、それは綺麗な子でさ、顔は…あんたの学校にいたあのアーレンスマイヤ家の当主の小僧っ子によく似ていたな」

ハインツ・フレンスドルフの、娘とそして孫と同じ灰色の瞳から滂沱の涙が零れ落ちた。

「愛は…全ての憎しみに勝る…というのか…」

「幸せな余生を、家族と共に暮らしなよ」
―ホラ、拭けよ。

刑事がポケットからハンカチを投げてよこした。

~~~~~

「刑事、…お迎えの方が見えました。…そろそろ」


「ああ。ほら、先生。お迎えが来たってよ。これでこのブタ箱とはおさらばだ。―もう二度と闇の方へは振り返るなよ」

取調室を出しなに、フレンスドルフは、今一度振り返り、刑事に深々と頭を下げた。

そして、お忍びで迎えにやって来た、孫に肩を抱かれて、永遠にこの街を去っていった。
作品名:番外編 光の当たる道 作家名:orangelatte