赤い冬
カオル君も、私の大事な執事の一人だ。 彼は感情をあまり表に出さずひょうひょうとしており、最初は嫌われているのかとも思ったが、なんだかんだで私の特訓に律義に付き合ってくれている。 正直私の中学に転校してきたときは驚いたが……。 私とは正反対で、何でもできて、かっこよくて、クラスの、特に女子からの人気が高い。 本人は心底嫌そうにしているが、私は、そんなカオル君が私の執事で、仲間であることを心から誇らしく思っている。
12月も半ばになり、気温は下がる一方である。 いくらコートを着込んでも、寒いものは寒い。
「今日は寒いね、カオル君。 マフラーしなくて大丈夫?」
「…… 大丈夫、アンタこそ鼻が赤くなってるけど」
ぱっと携帯の内カメラで確認をすると確かに、鼻先が寒さで赤くなっている。
「うわーほんとだ、トナカイみたい」
「……? なんでそこでトナカイが出てくるの?」
「えっカオル君知らないの?! 幼稚園の時歌わなかった? 真っ赤なお鼻の~って」
カオル君はきょとんとした顔で、急に歌いだした私をじっと見つめている。
「カオル君でも知らないことってあるんだね。 なんか嬉しい」
「そりゃあるよ。特にアンタと知り合ってからは解らないことが増えた」
「私?」
そういってカオル君の顔を覗き込むと、心なしか顔が赤くなっていた。
「カオル君、顔赤いよ、やっぱり寒いんでしょ。 私コート着てるし、このマフラー使って」
おもむろに自分の首につけているマフラーを外し、背伸びをしつつ彼にふわっと巻き付けると、彼は小声で、
「…なんでこんな気持ちになるのか解らない。 ずっと、君とバルコニーで話した時から、胸が変な感じだし。 こんな気持ち、知らない」
とつぶやいた。
「えっカオル君体調悪いの?!まだ私の家からそう離れてないし、引き返そうか?」
「いい、いくよ」
私のマフラーをそっと巻き直すと彼はすたすたと先を歩いて行ってしまった。 ぶっきらぼうで執事らしくないその振る舞いに戸惑うも、私は彼の口角がすこしだけ緩んでいたのを見逃さなかった。