不思議な旅路
その日、彼はいつものように散歩に出かけました。…彼の散歩は誰もが知る死出の旅。一度家から出ると少なくとも数日は戻って来れませんでした。
さて、今回彼が目指したのは東。しかし実際歩いているのは北の渓谷です。
「おかしいな…」
流石に道を間違えたと気付いた彼は、懐から硬貨を取り出しそれを弾きました。
「む…100円の数字側が上か…ならこっちだな」
こうして、海に出るはずだったのにいつの間にか山に入っていったのでした。
「不思議山か…」
呟きながら彼は歩み続けます。
そして山頂についた頃、日はすっかり沈んでいました。
「ん…小屋だ」
暗くなる中、彼は木立を抜けた先に爛々と光を零す家を見つけました。
これ以上歩くのも疲れたし、彼はその戸を叩きます。
「おい、開けろ」
「ああん?」
不躾なノックに、出て来たのは煙草を吹かした男でした。
「なんだてめぇ。このおれに何か用か」
「一晩泊めろ。東の海に行く途中で日が暮れたもんでね」
「東の海?そりゃお前、随分遠くにいくんだな」
サンジと名乗る男は目を丸くしました。
それもそのはず、ゾロは東の海から遠ざかっていたのです。
何とか今夜の宿にありつけた彼は家の端を陣取り眠る支度をしました。
…ところが、いつまで立っても家主は眠る様子を見せませんでした。
不審に思ったゾロは尋ねます。
「おい、寝ねぇのか」
「ははっ馬鹿を言うなよ」
黒い服を着込んだサンジが笑いました。
「俺に取っちゃあこれからが本番さ」
その時、ゾロはニカリと開けたサンジの口に牙を見つけました。
「おいてめぇそれ…」
噂で聞いたことのあったゾロの頭に危険信号が鳴りました。
「おお。巷で有名な吸血鬼とは俺のことさ」
ネクタイを締め鏡で自分の姿を確かめています。
「おっと安心しな。俺はレディ専門だ。野郎の血なんていただけたもんじゃねぇ」
刀を抜こうとするゾロにサンジは静止をかけます。
ゾロの長い旅はさっそく狂いだしました。