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かなや@金谷
かなや@金谷
novelistID. 2154
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サーカス

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あおいへや



 この部屋には何もない。

 青葉君がきた、彼は僕の後輩だ。
 
 先輩、この部屋には窓も、扉も、色も、なにもないですから、僕が色を塗りますね。

 青葉君は部屋を青く染めていく、白い右手の中心には紅い染みが滲んでいる。紅白の掌が、青く、青く部屋を染めていく。

 青葉君、魚がいるよ。

 色斑を僕は指差した。重い鎖がじゃらりと音を立てた。

 本当だ。鮫がいますね、先輩。

 青葉君はこの魚を鮫だと言った。青い海に鮫が産まれた。

 泳いだりしないのかな、じゃらじゃらと僕の鎖は音を立てる。

 泳がせますよ、先輩。

 さらさらと青葉君が手を振ると、鮫は大きく動き始めた。ゆらり、身を翻し鮫はゆったりと室内を回遊する。

 ほら、先輩見てください。

 白い掌を動かせば、鮫はそれに従い動き始める。
 椅子の下を大きな魚影が潜っていき、右手を挙げた青葉にならない飛沫をあげて鮫は跳ねる。

 うわっ、凄い。青葉君、あれやって

 はい、先輩、仰せの通りに

 青葉君の掌が、僕の望むとおりに鮫を動かしていく。

 先輩、楽しそうですね。


 本日のショーはお楽しみ頂けましたか?

 青葉君は紅く滲む掌を振った。



 臨也さんが来た。臨也さんは、僕の……なんだろう?

 帝人君、今日はなにがしたい?

 お話しをしてください

 いつも、それだね、君は、いいよ。

 臨也さんはお話しをしてくれる。その話はいつだって楽しい。
 楽しい話、悲しい話、悔しい話、面白い話、むかつく話、笑える話、泣かせる話、恋の話、歪んだ話、不思議な話、はなし、はなし、はなし。

 臨也さんが話を紡ぐと、なにもない部屋に人影が現れる。影絵みたいなそれが、話に合わせて芝居を見せる。

 楽しいかい? 帝人君

 はい、面白いです。臨也さん

 僕はじゃらじゃら音を立てながら手を叩く、見上げた臨也さんの顔はにやりと歪んだ。

 白いファーのついたコートはまるでマントみたいだ。青い部屋で一つだけの色、黒。

 貴公子みたいに恭しくも腰掛けた僕の前に膝をついた。

 とっておきのお話しをしてあげる

 なんですか?

 君が王様になる話だよ

 手品師みたいに手を動かすと、小さな王冠が現れた。僕の頭にそれが乗る。


 それでは、この後のお話しもお楽しみ下さい。

 恭しく道化師は一礼した。



 この部屋にはなにもない。
 色も、壁も、窓も、床も、扉も、椅子も、鎖も、枷も、なにもない。
 部屋すらもない。

 あるのはただ街だけ


作品名:サーカス 作家名:かなや@金谷