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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 そこにいたのは闇の守護聖クラヴィス様だった。
 ボクをちらっと見たあとに長〜い指で丁寧にタロットをめくっていたから、扉の前からひょいとジャンプして机の上に乗っかった。
 オラクルベリーには占い師さんがいるってリュカたちが言っていたから、占いのお店をやったら儲かるんじゃないのかな。
 カードには色んな絵が描いてあって、それぞれに意味があるのかもしれないけど、ボクにはよく分からない。
「見ていてもいい?」
 思わずそう訊いちゃったんだけど、クラヴィス様はちらっとだけこっちを見た。
「構わん」
 そう言ってくれたんだ。会話はそれだけだったけど、居心地がとっても良かった。ボクが悪いやつじゃないって分かってたみたいだった。

 次に迷い込んだ先は、光の守護聖ジュリアス様の執務室だった。
 ジュリアス様だけじゃなくお付きの人たちもボクが入ってきたことに気づいていない様子だった。
 見事な金髪のうねりが光を弾いていて、ボクは言葉なくただ見蕩れる。そういえばビアンカとポピーとティミーも金髪だけど、みんな真っ直ぐだったっけ。
 ジュリアス様はたくさんの書類を前にして、一枚一枚見つめては何かを押している。なんだか良く分からないけど、面白くはなさそうだ。
 まとめた書類を秘書っぽい人に手渡す瞬間に、ジュリアス様が口を開いた。
「J‐A032星域に関する調査報告書だ。本日中に女王補佐官へ届けてくれ」
 その声にボクは凍り付く。
 JA。
 今JAって言った? ジャハンナ・アグリカルチュラル・コーポラティブズの略って言った?
 もしかしてボク……見つかったら出荷されちゃうの? ってことはジュリアス様もボクの敵ってことか! ここも危険だ、早く逃げなくちゃ!

 今度はいっぱいの本棚の側に見覚えのある姿が見えて、ボクは窓目がけて思い切り飛び跳ねた。
 突然逃げ込んできたボクを見て、窓辺で本を読んでいた地の守護聖ルヴァ様は最初驚いていたようだった。
 この人は前に見たことがある。リュカが大事なお友達だって言ってボクら魔物全員に紹介してくれた。
 ルヴァ様は魔物の言葉は分からないらしいけど、いつも一緒にいた天使様はボクの目を見てにっこり笑ってお話してくれたのを覚えている。
 ここ聖地という場所は、何故だか分からないけれどボクら魔物の言葉が人間にも分かるようで、ルヴァ様はボクを抱っこしてとっても嬉しそうに話しかけてきた。
 ボクは食べられかけたことやロビンの的にされたことを、目から果汁を流しながら訴えた。そうしたら、ルヴァ様は穏やかにボクの真っ赤な皮をよしよしと撫でて落ち着かせてくれた。
「食べてしまうなんてとんでもない、こんな貴重なサンプルは研究院に連絡しなくては……」
 って良く分からないことをブツブツと呟きながらボクを違う部屋に連れて行った。さんぷるって何だろう。ボクはアプールなんだけどなあ。
 それから、普段何を食べているのか(ここでも鶏肉って言ったら変な顔された)、かじられたときはどうやって回復しているのか、果汁不足になったらどうしているのかとか幾つも質問をされて、答える度にルヴァ様はメモに書き留めていた。
 そこでボクは気づいたんだ。この部屋にはひとつも窓がないことに。それから、じっとボクを見つめるルヴァ様の目が、ちっとも笑っていないことに! なんとなくいやな気分になって周りを見渡すと、いつの間にかボクの周りには小さなナイフや細い針の付いた細長いものや、銀色の小皿なんかが置かれていた。
 このときボクはもう泣いてなかったけれど、代わりに冷や果汁がダラダラ流れ出た。そろそろ干からびてしまいそうだ。
 ルヴァ様がナイフを片手にボクの皮を少し取らせてくれと言ってきて、すっかり怖くなってしまったボクは思わずその手に噛みついてしまった。
 できるだけ甘噛みになるように手加減したんだけど、ボクの口の中は苦い汁でいっぱいになっていて、そのせいでルヴァ様の手はマヒしちゃったみたいだ。しばらく痺れてるだろうけど、そのうち治るから許してください。
 それから扉の取っ手にかじりついて、どうにかその場から逃げ出すことができた。

 結論────守護聖っていう人たちは、なんだかんだ言ってほとんど怖い。

 それからボクは、ボクたち魔物に優しかった天使様、ここでは女王陛下を探すことにした。
 物陰からメイドさんたちの様子を伺って、運ばれていく途中の果物の盛り合わせに紛れて、なんとか女王陛下のお部屋に潜り込んだ。
 お部屋の中には会ったときよりずっとずっときれいな女王様と、青い髪のきれいなお姉さんがお話していた。
 お話し中に割り込んじゃいけないってリュカが言ってたから、ボクはお話が終わるのをじっと待った。
 そうしたら、女王様のほうからボクのほうへ近づいてきたんだ! これでお話ができるかもしれないって思ったけど、ボクは顔が怖いから、びっくりさせちゃいけないと思ってまずは普通のりんごになりすました。
 女王様はそのまま白魚のような手ですっとボクを掴み上げた。薄目で盗み見ていたら、柔らかそうな桜色の唇がゆっくり近づいてきて、これはきっとご挨拶のちゅーだ! なんて思ったボクはなんだかドキドキしてしまった。
 ちゅーのときは目をつぶるんだって誰かが言ってたもん。恥ずかしいけどボクもちゃんとしなくちゃね……!


 そして、ボクはおでこに五十のダメージを食らった。まだ痛い。