二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

身勝手

INDEX|1ページ/1ページ|

 

 ころすなら、ころせばいーよ。
 ヴ、ヴヴ。と、低く電子レンジが唸る。彼は切羽詰まっているようだった。俺を殺すか殺すまいか、考えあぐねているのだ。俺は、すごく近い距離にある彼の顔を、じい。と眺めることに精一杯である。男のくせに長くふさふさとした睫毛。それが伏せられて、白くするりとした肌に薄く影を造る。透明にも似た、美しい金糸はゆるりとうねり、そのばらばらに跳ねる、ふんわりとしたくせっ毛の毛先を、俺はゆるく指に絡ませた。くる、くるりくるり。しばしそれを楽しんでいると、彼はようやく気付いたようで、む。と、訝しげな顔をしてみせる。彼の熱にうなされたような相貌は、この切羽詰った雰囲気の中で、お前は一体何をしているのだ。と俺へ問うていた。とは言え、俺は別段切羽詰ってはおらず、それは彼のみなのである。よって俺が何をしようとそんなもの、関係ないと思うのだ。俺は上機嫌で彼の髪で遊ぶ。まあ精々、切羽でも息でもなんでも詰まればいいと思う。俺は彼がどうしようと、関係ないと思うのだから。
 彼の、俺の首へまわった手が、じっとりと湿り気を帯びている。これは彼の動揺の証。それが俺の首へも纏わりつくのだから堪ったものではない。実を言えば止めて欲しかった。然しそれすらもまあ関係はないことなので、俺は只ひたすらに髪の毛をくるくるとさせ続けるのだ。愉しくはあった。だが実のところ、はやくこの、ある種の緊張感さえも孕んだ空気を、一刻もはやく終わらせたくもあった。俺をころすかころさないかは彼の自由であるが、俺の方にも(生きていればの話だが)予定と言うものがある。それに、好い加減、首へ纏わり付く汗やその類が煩わしくて仕様がない。それを伝えるべく、俺は少しの逡巡の後、そ、と唇を開いた。ねえ、未だ?
 それに彼は、はっ、となり、思わずその両の手のひらを外した。俺は、なんだ、ころさないのか。とほんの少しだけ嘆息した後、ぱんぱんと埃を払い、すっくりと立ち上がる。待、てよ。彼の、弱弱しい、戸惑ったようなこえが聴こえる。なんなのだろうか。もう俺に用はない筈だ。好い加減に、俺の時間を奪うのは止めて欲しい。そう思うが俺は案外に良心的なので、律儀に立ち止まって、なあに?と問うてやった。彼はすこし詰まり、あーだとかうーだとか呟いて、そしてそのまま、黙ってしまった。実に厄介。面倒くさい。俺はいよいよ痺れを切らしてしまって、もう、なんなの?と、僅かに苛立ったこえでもってそう尋ねた。彼はまた、はっと突かれたようなカオをして、ころし、たい。と、ちいさく呟いた。俺は両手を開いて、さあ、どうぞ?と応えてやる。たぶん、彼は俺をころせない。まあここで彼が俺をころしたとしても、どうでもいい。ただ、
 俺も、君を、ころすよ?そう問うと、彼はその相貌をまんまるうく開いた。彼がしぬのなら、勝手にしねば良い。そんなこと、俺にはどーだっていーことだ。どうぞお好きにすればいい。だけれど、俺は、ぜったいに、ひとりでなんかしんでやらないよ。俺をころすなら君を、君も、ころしてしまうからね。それこそ、俺の勝手で、君には止める権利はないよ。ねえ、そうでしょう?俺がそう訊くと、彼は、だらりと力を失くした両腕を降ろし、なんだ。それ。と、気と間の抜けたこえを漏らした。だって、そうだ。こちらばかりが提示していたら仕様がない。それこそ、彼の勝手と、俺の勝手を尊重すべきだ。ああ、でも、それじゃあ。
 まるで、心中みたいだね。と、言ってから、胸がむかむかと気持ち悪くなるのを感じた。

(そんなロマンチックなの、ごめんだ。)
作品名:身勝手 作家名:うるち米