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蜘蛛の糸

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二人の繋がりは、お互いの携帯電話の番号とメールアドレス。
この2つが機能しなければ、二人の繋がりは途絶えてしまう。
二人の間の細い細い繋がり。
正臣がそのことを実感したのは、ある土曜の昼下がりだった。

「壊れた?」
「うん。ごめんね」
いつもと変わらない笑顔で、沙樹は正臣に告げた。
壊れた、といって指差したのは携帯電話。
試しに正臣が触るが、沙樹の携帯電話から何の反応も返ってこない。
「うわ、ほんとに壊れてる」
「そうなの。これが無いと臨也さんとも正臣とも連絡とれないから困るんだよね」
「…だよなー」
自分より先に臨也の名前が出たことに、ほんの少しの苛立ちを感じながら正臣は相槌を打った。
正臣や沙樹のような未成年が新たに携帯電話を入手するには、親権者の同意書などの書類が必要になってくる。
沙樹本人から聞いたわけではないが、その書類を入手することが難しいであろうことは正臣にはなんとなく察しがついていた。

「そうだ」
そんなことを考えていた正臣の横で、沙樹は思いついたように口を開く。
「正臣、臨也さんの番号分かる?」
「え、あ、うん」
そう言って正臣は自分の携帯を取り出す。
そして臨也のアドレスと電話番号をディスプレイに表示させた。
「ちょっと電話、借りてもいいかな?」
「いいけど…」
「臨也さんに相談すればいいんだよね。そうすれば、何とかなるよね」
携帯電話を耳に当てながら、沙樹はころころとそんな言葉を口にする。
少しの間を置いて繋がったのか、沙樹は携帯電話が壊れてしまったことと、どうすればいいか教えてほしいという旨を臨也へと伝えた。
その姿を横目で見ながら、沙樹に聞こえない小さな声で呟いた。
「彼女に頼ってもらえないとか、なさけねー」
作品名:蜘蛛の糸 作家名:香魚