とある放課後
「今日は涙くんもいないし、野球はやめて久しぶりに小鉄君の家に行きましょうよ。」
一年中ロッテのTシャツを着ている彼は今日父と野球の特訓をするそうだ。雪がちらついている中よくやるなあなどと思う。
「せやなー。小鉄ん家で久しぶりにパミコンして遊ぼうや。」
「順子さんの煮物食べたいプー。」
「おい、小鉄。あんまり水たまりであそぶなよ。とんでくるからさ。」
「ココア飲みたい・・・」
それぞれが、やりたいことを口にする中、一人微笑んでいる少女がいた。
中田さん、皆が私のことをそう呼ぶ。
しかし本名は『田中』である。
地味な自分の見た目からして、田中の方がしっくりくるはずなのだが何故が皆間違えてしまう。
最初こそは訂正していたが、だんだん面倒くさくなってやめた。
そんな私も転校してから、一年が経つ。
転校してきた日に、彼らとかくれんぼをしたのが昨日のことのように感じる。
あの日は結局見つけてもらえず、そのまま行方不明扱いとなってしまった。
だが、実はその後毎日登校していた。
そのぐらい影が薄い私が、今では『中田ちゃん、中田ちゃん。』と相手から声をかけてもらえるのだから不思議なものだ。
ましてや、三年一組の中心ともいえる小鉄たちと放課後を共にするなど、転校前は想像もしていなかった。
「・・ちゃん・・・中田ちゃんってば!」
顔を向けると、あかねが心配そうに見ていた。
「帰り寒かったから冷えたんじゃない?順子さんがココア入れてくれたから飲もうよ。」
目の前にはマグカップがすでに置かれていて、何とも言えぬ優しい香りが鼻をくすぐった。仁とフグオは幸せそうにココアを飲んでいる。
そして、ココアをものともせず、小鉄とノブ、のり子は、パミコンに熱中していた。
明日は涙くんも一緒に帰れたらいいね。花子さんは何故私に敵対心を抱くのか、ノムサンは、給食の八宝菜をどれだけ食べることが出来るのかなどと他愛もない話をしながら、
私は幸せを感じるのだった。