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「 so far, so near 」

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夜なのに青い。曇りも霞もない青い青い空に、黄色い月はよく映える。
 雨上がりのせいか、澄んだ風に凛と張り詰めた空気に街はくっきりと浮かび上がる。

 春だけれど、朧月夜にはまだ出会えないらしい。
 凍えるような冷たさが身体に張り付く。

「空を見てください」

 天気は確認している。あちらは晴れだ。

「月が見えますか」

 たずねると、うんと返事が返ってくる。

「きれいですね」

 電話越しに、空気が振動する気配が伝わる。

「笑わないでください」

 咎めるつもりはなかったけれど、制してしまう。

『笑ってない。寂しいのか』

 わざと引き締めた声に聞こえるのは、会えないもどかしさからだろうか。

「笑わないでくださいってば」
『いいだろ。俺も同じこと思ってるから』
「肯定してませんよ」
『してないだけで、するんだろ』
「勝手な人」
『どっちが』

 愛の言葉を囁きあうのは、離れていてもできるのだと気がつく。
 むしろ今は、離れているほうが正解かもしれない。
 こんなに月のきれいな夜に、月を眺めずしては語れないだろう互いへの想いを、しかし傍にいればその温もりに手が伸びるから、やはりこのくらいの距離が、今はあっていいのかもしれない。

「イギリスさん、手紙が欲しいです」
『――珍しいな、なにかを欲しがるなんて』
「私も何か贈ります。なにがいいですか」
『手紙の返事』
「即答ですね」
『手紙の返事は手紙以外にないだろ。ああ、カードでもいいか』

 わかりました。手紙ですね。出す日を決めよう。では一週間後の日のうちに、ということで。わかった。楽しみだな。ええ、本当に。なにを書くのですか? それを言ったら意味がないだろう。そうでしょうか? 形に残ることに意味があるのでは? じゃあ日本はなんて書くんだよ。内緒です。ったく、本当に、どっちが勝手なんだか。

 だけど知ってる。勝手なのは、それを受け取る人がいるから。それを受け取る人を愛していて、それを受け取る人が自分を愛していることを知っているからなのだ。

 あらゆる手を尽くして想いを伝え合う。
 計算だって、駆け引きだって問わない。
 なんなら、月を手に入れることに命がけになったっていい。

「それにしても」
『きれいだな』

 それが唯一の証になるのならば。














......END.
作品名:「 so far, so near 」 作家名:ゆなこ