ずっと知ってると思ってました
気に入らない奴なら腐るほどいる。
軟派な南の連中や、
図々しい東の奴ら。
住み良い温暖な気候や四季のおかげで脳が腐ってしまっている。
厳しさと言うものが存在しないのだ。
・・・貴様、しつこい奴だな。撃たれたいのか?・・・ええい、これ以上話すのも面倒だ。
二度は言わん、心して聞けよ。
許せる範囲は、我輩の隣に住んでいるドイツくらいなものか。
奴は硬派で頭もいい、力があり妥協もない。
それに、奴は・・・蛇足だな。
しかし奴も南の連中とツルんでいたためか大分頭がふやけて来てな。
特に、我輩の足元でだらだら過ごしているイタリアの弟と付き合うようになってからは、奴はダメになってしまった。
神聖ローマ帝国の名が泣く、と言うものだ。
・・・む?蛇足部分を話したな、だと?貴様ら愚民どもがこの程度のヒントで理解できるものか。
まぁいい・・・奴は、ドイツは、イタリアの弟の、笑顔に隠した性格の悪さを知らないのだ。
貴様に特別に話してやろう。
我輩が眠る支度をしていた夜半過ぎのことだ。
イタリアの弟が我輩の庭にずけずけと踏み込んできた。
不愉快にも大声で歌いながら、庭でステップを踏んでいる。
まっすぐドイツの家に向かうのではなく・・・どうやら我輩を挑発しているらしい。
奴を調子に乗らせる訳には行かぬ。
威嚇用の小銃を手に、イタリアの背後に迫ったのだ。
「動くな。」
「あっスイス!やっぱり来ると思ってたんだぁ〜♪」
明るい腑抜けた歌を歌いながら、イタリアは笑う。
何がそんなにおかしいのやら、湯だった脳みそは幸せだな、とつくづく思えた。
「ねぇ、こないだ珍しくイギリスとかが開いた会議に出てたよね?
ヒッキーなのに、何か心境の変化?」
あれは上司の命令だ。
環境問題でのリーダーシップを、これからもヨーロッパが取っていくため、会議に出た。
しかしそんな真っ当な返答など必要ないようだ。イタリアの目は既に笑っていない。
「ねぇ、あの時さぁ、やったらドイツの肩持ってたよねぇ?
俺はさ、ドイツのこと大好きだし恋人だし
いつでもドイツが一番って思ってるから絶対反対なんてしないけど、
スイスもずっと一緒だったよね?あれさ、何で?」
意味が判らない。
思考回路がどのように構成されているのか、解説してほしいほどだ。
ドイツは環境問題に、他のヨーロッパ連中よりも真剣に取り組んでいる。
イギリスやフランスもそれなりではあるが、やはりドイツには特筆すべきものがある。
それを、評価しているだけだ。
「スイスもドイツのこと好きなの?
そうだよね、ドイツカッコいいもん、俺のカレシだもんねぇ。
好きになっちゃう気持ちは判るけどさぁ、諦めてよね。」
「・・・意味が判らん。」
「ドイツ俺のこと大好きだから。
だからスイスには振り向いてくれないよ?」
けたたましく笑って、声だけを聞けばいつも通り。
しかし、ドイツの奴は見たことがないだろう、底冷えするような目をした。
「調子乗んなよ」
驚いた。
のんきな顔しか見たことがない、イタリアの弟らしからぬ顔をした。
茫然と立ち尽くす我輩に満足したのか、イタリアは笑いながらドイツの家へ向かって行った。
それ以来。
奴は我輩に近寄らず、我輩も奴には近寄らなくなった。それまで以上に。
その話をドイツにしてみたが、ドイツは笑って
「基本的にイタリアは、感情、今回の場合は恋愛だな。
そう言った思考を中心に物事を判断するんだ。
加えて、少し独占欲が強い。
そうやって嫉妬されたのは、お前だけではないよ」
可愛らしいじゃないか。
などと、
のんきなものだ。
我輩はほとほと呆れ果てた。
我輩が最も気に入らないのは、今言った通り。
イタリアの弟だ。
考え方も、あの底冷えする目も、何もかも理解できない。
嫌いだ。はっきり言える。
大嫌いだ。
作品名:ずっと知ってると思ってました 作家名:もかこ@久々更新