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はろ☆どき
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novelistID. 27279
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もぐもぐ兄さん【5/4 SGD2018・新刊】

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【ちょこれいと兄さん ~その後~】


 ぱたん、と執務室の扉を閉じてしまうと、先程までの喧騒が嘘のように静かになった。
「さあ、こちらに座ってゆっくり食べたまえ。その間に、私は報告書を読ませてもらうとしよう」
 ロイは手に持っていたフォンダンショコラの乗った皿をローテーブルに置き、来客用のソファーへとエドワードを促す。しかし、エドワードは扉の前に立ち尽くしたまま動こうとしなかった。
「鋼の?」
 ロイは不審に思い振り向いたが、エドワードは下を向いており表情が見えなかった。そう言えば、先程まであれだけ騒ぎ立てていたのに、ここに入った途端押し黙っている。どおりで部屋が静かに感じたわけだ。
「どうしたんだね。温かいうちが美味いのだろう?」
 声をかけても俯いたままで、聞こえていない筈はないだろうに反応がない。いや、よく見ると走ったわけでもないのに肩で息をしていて、手は胸の辺りを抑えている。
「鋼の。もしかして君、具合でも悪いのかね? それならば医務室へ……」
 よもや熱でもあるのだろうかと、ロイは扉の方へ戻りエドワードに触れようと手を伸ばしかける。だがエドワードはそれを拒むかのように、首を横に振り後ずさってしまった。無論、後ろは扉なので、一歩後退できたくらいなのだが。
 しかし、ロイはすっかり途方に暮れた。いつも元気過ぎるくらい元気なエドワードが、こんな様子なのは初めてだ。一体どうしたことだか、さっぱり訳がわからない。
さて困った。どうしたものか。


+++++

【マシュマロ兄さん】


「こんちわー」
 元気よく司令室のドアを開けて飛び込んできたのは、金髪金眼の兄の方。
「お邪魔します」
 礼儀正しく挨拶しながら入ってきて、きちんとドアを閉めたのは鎧姿の弟の方。
「いらっしゃい、エドワード君、アルフォンス君」
「よお、エド、アル。相変わらず元気そうだな」
 東方司令部の司令室に顔を見せたエルリック兄弟に、ホークアイ中尉やブレダ少尉を始め、顔見知りの軍人達は口々に笑顔で声を掛けてきた。
 ただ一人を除いては。
「あれ、ハボック少尉?」
 いつもなら真っ先に声を掛けてくるひよこ頭の長身の少尉の反応がなく、エドワードは首を傾げた。居るにはいるのだ、今この場には。だが目に入るのは机に撃沈しているひよこ頭ばかり。
「よお……大将にアル」
 二人が来たのに気付いてはいるようで、エドワードが疑問符付きで声を掛けると、ようやっと声を発した。だが顔も上げずに、力なく片手を振ったのみだった。
「どうかしたんですか? ハボック少尉」
 アルフォンスが誰にともなく尋ねると、ブレダが苦笑して言った。
「まあな……。ちょっとそっとしといてやってくれや」
「二人とも、辛気臭い人は放っておいてこちらにどうぞ」
 ホークアイは容赦のない発言をしながら、にっこりと微笑んで二人を休憩スペースへ促した。兄弟に否やはない。
「身体の具合が悪い……ってわけじゃなさそうですね」
 飲み物の用意をすると言ってホークアイが席を外しても、立ち上がらず顔も上げないハボックをアルフォンスは心配げに見やる。
「どちらかというと、心の具合が弱っている感じでしょうか」
 休憩スペースにやってきたファルマン准尉が答えた。
「心の具合?」
 聞き慣れない言葉に、エドワードは思わず訊き返す。
「一言で言えば、傷心中ってやつさ」
 ブレダが声を潜めて意味深な様子で言った。
「ええと、女の人に振られたとか?」
 それならいつものことのような。エドワードもアルフォンスも二人して首を傾げた。残念ながらハボックの恋愛に纏わる印象といったら、いつも振られている認識だ。
「まあ今回の場合、誰か一人にではなく、司令部の女性全員を敵に回したような状況なんですよ」
 フュリー曹長もお気の毒にというように肩を竦めた。
「ことの始まりはこれさ」
 ブレダはそう言って、テーブルの上を指差した。そこには大きな透明の袋があり、中には白くて丸くて柔らかそうな物が沢山入っていた。
「なんだこれ」
 エドワードが袋の上からそっと突つく。
「マシュマロかな?」
 その様子を見てアルフォンスが答える。
「ご名答」
 ブレダがパチリと指を鳴らして陽気に言うが、謎は深まるばかりだ。
「なんでこんな大量のマシュマロがここに?」
「ハボック少尉と何の関係があるんだよ」
 アルフォンスもエドワードもそれぞれ疑問を口にする。
「まあまあ。二人とも昨日が何の日か知ってるか?」
 逆にブレダが二人に聞いていた。
「昨日? 三月の十四日だよな」
「あ、もしかしてホワイトデーですか?」
「ホワイトデー? なんだそりゃ」

(中略)

 会議から戻ってきたロイが執務室の扉を開けると、予想通りの人物が来客用のソファーに座っていた。ホークアイ中尉から鋼の錬金術師が訪れていると聞かされていたし、弟のアルフォンスとも司令室で顔を合わせたからそこに驚きはない。
 だがそこにいた本人の様子が……正しくは顔つきがなんとも面妖なものだったで、ロイは思わず突っ込んだ。
「一体何をやって……いや、何を口いっぱいに入れているんだね、鋼の」
 そこにいた少年――エドワードは、何かを口に沢山含んでいるらしく頬がパンパンに膨らんでいた。まるで木の実を頬袋いっぱいに詰め込んだリスのようだ。ある意味、可愛らしくはあるのだが……。
「ふぉー、ふぁいふぁ」
 エドワードはロイの方を向いてもごもごと声を発したが、何と言っているやらさっぱり分からない。これでは意思の疎通ができなくて困る。
「口の中の物を吐き出しなさい」
 ロイはそう言って、ポケットからハンカチを出そうとした。しかし子リス……基、エドワードは片手を上げて待ったの仕草をする。仕方なくそのまま見守っていれば、エドワードは口をもぐもぐさせた後ごっくんと喉を鳴らして飲み込んだ。
 まるで獲物を丸飲みする蛇のように、細い首の中を塊が降りていくのが見えるようだった。獲物が大きかったのか、エドワードは胸元を拳でとんとんと叩きながら噎せている。
 ロイは執務室に置いてあった水差しから、コップに水を注いで渡してやった。下士官が見たら上官に――しかも大佐であり焰の錬金術師であるロイにそんなことをさせるなど、気を失いかねない光景だろう。
 だがエドワードは何の抵抗もなく手を伸ばし、コップを受け取るや否や、ごくごくと飲み干した。
「くはー、喉通らないかと思ったぜ」
「一体何をそんなに頬張っていたんだね」
 ロイはエドワードの向かいに腰掛けながら尋ねた。すぐに執務に勤しむ気分になどなれない。
「んー、これこれ」
 エドワードは自分の脇にあった大きな袋を引き寄せ、持ち上げて見せる。
 透明なビニールの大きな袋の中には、一口サイズの卵状の物が沢山入っていた。色は白や薄いピンクで、繭玉のようにふっくら艶やかで、まあるい形の恐らくは食べ物――エドワードが口に含んでいたので――なのだろう。

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