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魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦

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 少し高いところにあったそれを、みらいは腕をいっぱいに伸ばしつま先立ちしてやっとの思いで手に取った。そしてみらいは、その上下が尖ったいびつな多面体の黒い結晶を太陽の光にかざして見つめた。怪しい光を放つ漆黒を見つめていると、吸い込まれるような感覚と共に不安感が押し寄せてくる。みらいが黒い結晶を最初に見つけたのは、始業式が終わった後の帰り道だった。道端に落ちていた黒い結晶を初めて見た時、言いようのない恐怖に襲われた。そして、これは危険なものだと直感的にわかった。それにもう一つ奇妙なのが、みらい以外の人間には黒い結晶が見えないようなのだ。家の居間で黒い結晶をまじまじと眺めていた時、母親から妙な顔で何をしているのかと聞かれた。説明すればするほど、母の表情は怪訝(けげん)になっていった。それで、みらい以外の人間に黒い結晶が見えていない事が分かった。そしてもう一つ、最近分かった事が、人間以外の動物は黒い結晶を認識しているという事だ。みらいは昨日、子犬が黒い結晶をくわえているところを見かけた。その時に危険だと思い、子犬を可愛がって結晶を譲ってもらっていた。
「モフルンはこれ何だと思う? 魔法と関係あるのかな?」
 みらいはくまのぬいぐるみに話しかけるが、返事があるはずもない。それでもみらいは、以前モフルンが自由に動きおしゃべりしていた時と同じように、今もお話をしている。例え動かなくても、モフルンには心があり、いつでもみらいの言葉を聞き、みらいと同じ景色を見ている事を知っているからだ。
 みらいはバッグのサイドポケットに黒い結晶を入れた。もう十数個の結晶を集めていた。みらいはこの黒い結晶を集めなければならないと素直に思っていた。特に理由はないが、そうしなければ何か恐ろしいことが起こるような、そんな気がしていた。
 公園に夕日が落ちる頃に、みらいが次の結晶を探そうと歩き出した時に地面が揺れた。
「うん? 地震だ……」
 大した揺れではなかったが、みらいが家に帰った時にニュースで世界中で騒ぎになっている事を知った。その地震は世界中で同時に起きていたのだ。つまり、一瞬だけナシマホウ界全体が揺れたのである。テレビの中で様々な専門家が、世界中で噴火が起こる前兆だとか、まだ人類が認識していない世界を横断する断層があるだとか言っていたが、みらいはきっと魔法の力だと思った。

 夕日の差す薄暗い部屋の中で、長い黒髪の少女がジーンズの短パンにピンクのTシャツのラフな姿でベッドの上に座り込み、背中に蝙蝠(こうもり)の翼の付いた黒猫のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめていた。その黒い瞳は潤み、涙が溜まっている。端正で年の割には大人びている顔には、闇のような陰鬱(いんうつ)さが広がり、少女は涙を零した。
「お母さん……」
 その時、世界中を揺るがす地震が起こった。しかし、小さな振動だったので、悲しみに沈んでいた少女は地震があったことにすら気づかなかった。少女が抱く黒猫のぬいぐるみは穏やかな笑顔を浮かべていたが、どこか悲しそうに見えた。

 魔法界を揺るがす地震があってから三日後の朝に、リコは校長と一緒に魔法の絨毯(じゅうたん)に乗って、巨大な魔法陣の中心へと向かっていた。彼女の目の前には見覚えのある魔法の文字が広がっている。校長は空飛ぶ絨毯を止めて話し始めた。
「この数日間の調査で驚くべき事実が判明した」
 魔法の箒ではたどり着けない高度の上空で、リコは強く吹き付けてくる風で帽子が飛ばされないように手で押さえながら校長の話に耳を傾ける。校長は魔法陣の中心を指さして言った。
「あの魔法陣の中心からトンネルのような空間が広がっておる。そしてそれは、ナシマホウ界までつながっているらしい」
「ここからナシマホウ界まで!?」
 リコは驚愕した。彼女は現在の魔法界からナシマホウ界までの距離は正確には知らないが、それが尋常でない事は容易に分かる。
「それだけではないぞ、魔法界はナシマホウ界から離れていくはずだったが、先の地震から魔法界は動いておらん、まるでナシマホウ界と鎖ででも繋がれたようにな。現在、二つの強力な魔法によって、二つの世界は通じておるらしい」
「二つの魔法?」
「ナシマホウ界側からも魔法のトンネルが伸びている事が確認された。そのトンネルを利用すれば、カタツムリニアでナシマホウ界まで行くことは可能だ、論理的にはな……」
 最後に校長が付け加えた言葉が、リコに不安を与える。
「……簡単じゃないんですね」
「うむ、今の魔法の技術では、ナシマホウ界に着くまでに数ヶ月はかかる。それ以前に、ナシマホウ界まで魔法のレールを敷くのに数年を要するだろう」
「それじゃ間に合いません!」
 リコが思わず立ち上がって言うと、ふかふかの絨毯の上でバランスを崩し、ごく小さな悲鳴と共に尻餅をついてしまう。そんなリコに校長は微笑を浮かべた。
「まあ、話は最後までききたまえ。実をいうと、トンネル内には既に魔法のレールが存在しておる。そして、トンネルには強力な魔力に満ちておって、それを利用すればカタツムリニアを極限まで加速する事が可能であろう。今なら一週間もあればナシマホウ界まで行けるはずだ」
 それを聞いたリコの胸に希望の光が満ちる。同時に安堵(あんど)から笑顔が生まれた。
「良かった……」
「ことは君がリコ君をナシマホウ界に導いていることは確かじゃな。また苦労を掛けることになるが、行ってもらえないかね?」
「もちろんです!」
 ナシマホウ界で良からぬことが待ち受けていることははっきりしている。それでもリコは親友のみらいに再び会うことができると思うと胸が踊った。

 聖(ひじり)ユーディア学園に終業のチャイムが鳴り響く。聖沢小百合(ひじりさわさゆり)は席を立ち、誰と言葉を交わすこともなく、たった一人で三年一組の教室を出ていく。彼女は転校してきてから一週間になるが、ほとんどクラスメイトと話をしていなかった。周りが冷たいというわけではない。小百合に人を寄せ付けない空気があるのだ。自分に近づかないでほしいという意思が、クラスメイトには目に見えるように伝わっていた。そのうえ、小百合が飛びぬけて容姿端麗(ようしたんれい)な少女である事も拍車(はくしゃ)をかけている。
 小百合の鞄の中からは、いつでも黒猫のぬいぐるみが愛らしい顔を覗かせていて、小百合がそういう可愛らしい物が似つかわしくない感じもあり、それは徒たちの目を引いていた。

 小百合はうつむいて、黒い瞳に悲しげな光を帯びながら街中を歩いていく。両サイドに小さな黒いリボンの飾りが付いた白のハイソックスに黒い革靴をはいた少女の美脚が数人の男性の目を引いた。小百合はそんな視線には全く気付かなかった。事故で母親を亡くして以来、ずっとそんな様子であった。街行く車のクラクションも、人々の雑踏の音も、悲しみに塗りつぶされた彼女の耳には届いていない。前から歩いてきた奇抜な姿の少女にも気づかなかった。少女は鍔本に赤、ピンク、黄のチェックリボンの付いた赤紫色の三角帽子を被っていた。いったん小百合の横を通り過ぎたとんがり帽子の少女は、すばしっこく走って戻ってきて、小百合の前にいきなり顔を出した。
「あれあれ? なんかすっごく悲しそう!」