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逆行物語 第一部~ダームエル~

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現在と過去



 …どうしてこうなったのか。

 私は変わり果ててしまった故郷に、心で涙が溢れた。
「ドレヴァンヒルかダンケルフェルガーから第一夫人を娶って欲しい。」
 それは懇願と言う名前の、命令だった。自身もクラッセンブルクから第二夫人を娶る計画を立てている中での命令…。
 減ってしまった貴族を大領地に相応しい数に戻すのは容易では無い。婚姻の話があるなら、乗るべきなのだ。
「畏まりました。」
 中級貴族になったとは言えど、元は下級貴族の私は、妻を2人以上娶る等、考えてもいなかった。
「…フィレーネ。」
 帰宅した私の様子に気付いた妻は、心配そうに見詰めている。
「君は第二夫人になる。…アウブより命令が下った。」
「…そうですか。仲好く出来れば嬉しいです。」
 同じ下級貴族同士だった故に、私同様、覚悟の無かったろう妻は、それでも微笑んでくれた。

 「ダームエルは私にとって一番の騎士です。」

 嘗て言われた言葉が甦る。
 平民から大領地の領主へ。数奇な運命を歩んだ唯一無二の主、ローゼマイン様に付き従い、私はエーレンフェストからアレキサンドリアに渡った。
 ローゼマイン様を失うエーレンフェストには兄上がいる。気に掛からない訳では無かったが、アレキサンドリアに行く事に迷いは無かった。
 その先に、妻のフィレーネとの幸せが待っていると、疑う気持ちは無かったし、実際、アレキサンドリアでの生活は幸せだった。――だった、そう、過去の話だ。
 ローゼマイン様の虚弱さは理解していたつもりだった。本当につもりでしかなかった事が思い知らされたのは、ローゼマイン様とフェルディナンド様の星結びから2年が経った頃だった。
 何時もの様にフェルディナンド様により、ローゼマイン様がエスコートされ、移動されていた時、不意に、その身体が沈んだ。

 ――何の予兆も無かった。一瞬前まで、笑顔でお話しされていたのに。

 側近を振り切る勢いで、フェルディナンド様がローゼマイン様を抱え、走る。寝台に寝かせると薬を飲ませようとされていた。しかしローゼマイン様の咽は動かなかった。

 ローゼマイン様の名を叫ぶフェルディナンド様。そして、恐ろしい程の魔力が吹き荒れた。
 威圧を何倍、否、何十倍も凝縮した様な魔力の渦はドンドン大きくなり、部屋中を破壊し、それは広い筈の城を呑み込む様な勢いだった。目を合わせていないのに、傍にいる訳でもないのに、多くの貴族が倒れ、苦しんだ。威圧の本当の恐ろしさを知った瞬間でもあった。
 フェルディナンド様に名を捧げていた者はまだマシだった様で、銀の布を取りに行く事が出来た。しかし、魔力を遮断する筈の銀の布さえ、フェルディナンド様はボロボロにしてしまったのだ。