逆行物語 第三部~ラオブルート~
アダルジーザの実
アダルジーザの姫が政争の敗者となり、処刑が決められた。離宮も閉められ、哀れな女を産み出さないとした。
その中で魔石の価値も無い姫と言い切られた一番幼い者を、秘密裏に中央神殿に預けたのは、忘れ難いラッフェルを想い出させたからだった。嘘だと知っていて、私は過去に負けたのだ。
水色の髪、金の瞳、ここ数代前から続く姫の特徴らしい。ここまで色濃く受け継いだ子供は、私の知る限り後1人だ。
運良くアダルジーザから出された、魔石になる筈だった運命を覆した子供、クインタ。私の想い人を高みに上げた原因。と言っても恨む気は無い。十分な魔石を貰いながら、贈るのを渋ったのは当時のツェントだ。
水色の髪も、金の瞳も珍しい訳では無い。全領地の貴族の中から、クインタを探せと言われても、クインタの連れて行かれた領地を知らねば、難しいだろう。成長すれば、子供の、特に男児の顔等変わるモノだ。
だから当に忘れていた記憶を刺激した、幼い姫を助けてしまったのだ。
ある時、姫は酷い熱を出した。高過ぎる魔力の弊害だった。折しも私は魔獣退治で遠征中だった。良く高みに昇らなかったモノだ。
不思議な夢を見ていた、と姫は話した。中央神殿のキュントズィールと呼ばれ出すのは間も無くだった。
エーレンフェストの聖女が襲撃を受けて、ユレーヴェに浸かっていると報告を聞いた時、ユルゲンシュミットの者達(一部の貴族)に、神託が下った。内容は“神殿で生きているアダルジーザの実を次期ツェントにしなければユルゲンシュミットは10年と待たず、滅びるだろう”と言うもの。
神託を受けた貴族達は連日会議をした。様々な派閥や自分達の利。次期ツェントと目されていた、2人の王子。
けれどユルゲンシュミットが滅ぶと言われては、その結果は決まっていた。斯くして次期ツェントが決まった。
私が最初にツェントに進言した事は、アダルジーザの事を出すのは、外聞に良くないと言う事だ。世に憚る離宮を知る者は、口を噤んでいる。そんなモノが王宮にあった等、宣言する事では無い。数字で呼ばれる子を魔石にする離宮等。
この希望を出したのは本人だった。アダルジーザの生まれ等、知られたくない。神殿で生かされているのは誇りだから、それを隠して欲しく無いけれど、数字は厭だ、これを機会に改名したい。そう言ったのだ。では何と名乗るか。彼女は少し、考えて言った。
フェルネスティーネ、と。
作品名:逆行物語 第三部~ラオブルート~ 作家名:rakq72747