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逆行物語 裏五部~愛と死のロンド~

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ヴィルフリート視点~影の始まり~



 ツェントに従い、祠を巡る。祈りと魔力を捧げ、始まりの庭にもう1度、足を踏み入れた。
「ほう、テルツァの次の世代か? もう引退するのか。人間の時間は早いな。まあ、良い。受け取れ、次代のツェント、ヴィルフリート。」
 何を言う間もなく、シュタープに移される、人間には全把握は到底不可能と思われる量の歴史。何かを考えようとすれば、考えるな、受け止めよ、と言われ、ただただ流された。

 メスティオノーラの書を受け取り、取り敢えず気になる事が出来た。
「エアヴェルミーン様、お伺いしますが、グルトリスハイトは高みに昇った全ての人間の記憶なのですか?」
「いや、我々が認識出来る魔力の持ち主だけだ。」
 となれば………。
「平民が欠片も見当たらないのはその為ですか。では私の記憶も高みに昇れば、グルトリスハイトに記載されるのでしょうか?」
「其方の魔力量なら間違いなかろう。」
「例えグルトリスハイトを持っていなくても?」
 念の為、聞いておく。
「そうだ。」
「……成程、理解しました。
 処で旧い記憶より新しい記憶の方が詳しいのは?」
「当然の事であろう。何が疑問だ?」
「…失礼しました。」
 私は礼を言ってから、その場を辞した。……グルトリスハイトは父上の代わりか。客観的には随分なお釣りが必要だが。ドレッファングーアの軌跡(思い出の品、プライスレス)として買われた様だ。故にツェントの伝える事にした。
「…私は…、叔父上がエーレンフェストの土を踏むには遠い高みで、幸せに眠る事、祈り続けます。」
 と。 

 申し訳ありません、父上。

 私は叔父上の手で救われました。それは貴方が望まれたからだ、と言う事は理解しています。そして同時に、貴方が望まれても、叔父上以外で手を差し伸べる方は、居なかったであろう事も理解しています。

 父上と叔父上が2人揃ったから、私は救われました。

 理解しています。ですが、それでも。

 私にとって、より大事な存在は叔父上なのです。

 心で侘びて、私は父上のメダルを廃棄した。誰にも言わず、父上の死を偽装した。
 カルステッドやボニファティウスは何か感付いている様だが、私のアウブ就任を積極的に押し進めた。
 所詮は取り柄の無い下位領地。ツェントに異議を唱え、逆らう力は無い。
 程無くして、ツェントの許可の元、真なる礎の元へ私は向かった。礎に魔力を流し、私はアウブ・エーレンフェストとなった。
 その後、様々な取り決めをした。ツェントの身内として、恥ずかしくない様にと魔力量や属性数を増やして行く為に、神殿を利用した。
 その昔、次期アウブが神殿長だったのは、そう言う理由があったからだろう。

 ………………。

 叔父上…、貴方の死を偽装したツェント程では在りませんが、上手くやったつもりです。母上達も…、気付いてはおりません。
 
 貴方が父上に懸想していた事、それにご自覚が無かった事、何時頃からか、殆ど確信しておりました。
 当時は……、口を出す事が正しいとは思えなかったので、黙っておりましたが。

 けれど今は、ツェントの協力が得られる。であれば。どうか。

 お幸せに、叔父上。