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逆行物語 裏三部~フェルディナンド~

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対峙



 アウブ・エーレンフェストになった私は、事前の命令通り、貴族院へ来ていた。用意された一室で、盗聴防止が置かれている。
 最低限の側近しか居らぬ私に合わせてか、ツェント・フェルネスティーネも側近は最低限しか付いていなかった。
 側近さえも盗聴防止の魔術具によって、話の内容から外される。
「それで…、一体、どの様なお積もりでしょうか。」
 これより先のエーレンフェストと中央に付いての話し合いと命令であれば、文官でさえ阻まれるのは妙だ。
「…この盗聴防止は、唇の動きでさえ隠せるモノ。つまり私の秘密についても、話しておきたいの。」
 この場を私用に使うと? 魔術具には興味があるが、余り感心出来る事では無い。
「勿論、この先のエーレンフェストにも関係がある話よ。只、余り言い触らす事でもないから、何処までをエーレンフェスト領の人間に話すべきかの判断はアウブの貴方に任せるわ。」
 …成る程、詰まりは私が何処まで忠誠を示せるか、試すと言う訳か。ならば、ここで明かされる秘密は、ツェントにとって、どうにでも出来る訳だな。
「分かりました。では、お伺い致します。」
 何を言い出すのか。心で臨戦体勢を整える。
「正直に答えて欲しいし、余計な誤解を招きたくないから、単刀直入に聞くわね、貴方、エーレンフェストをどうしたい?」
「勿論、発展をさせて行きたいと思っています。」
「捻くれた解釈をすると、エーレンフェストを滅ぼしたいと聞こえるけど、言葉通り、そのままに、素直に受け取って良いかしら?」
 どう言う積もりだ? エーレンフェストをどうしたいと言うのだ?
「仰られている事の意味が解りませんが…。」
 愛想笑いでそう言う。何を企んでいる? 

 「貴方は、モトスウラノをどう思うの?」

 馴染みの無い響き。だが覚えが無い訳では無い。私は一瞬迷う。知らぬ存じぬを通すべきなのか。だが、それでは話を裁ち切られるかも知れぬ。
 ローゼマインが転生者である事は、本人、私、ジルヴェスター、カルステッドしか知らぬし、モトスウラノと言う名前に付いては本人と私しか知らぬ。流石にローゼマインと、そこまで話していた訳ではあるまい。
「何処でその名前を聞いたのですか?」
 私は情報を聞く為、言葉を返す。
「貴方の評価を聞いてから答えるわ。」
「…ユルゲンシュミットの貴族社会とは全く違う価値観の、本と学問を愛する世界で育ち、不慮の事故で無くなった、優秀な女性だと判断しています。」
 先に此方だと言われ、私は答えた。どうせこれだけでは何も伝わらない。言葉だけでは理解出来ないのだ。ツェントが転生者で無い限り。
 だから、ソレが伝わるならば、ツェントが考える事を絶対に聞かねばならぬ。
「そう。ならば貴方はエーレンフェストを滅ぼすわね。」
「どう言う意味でしょう。」
 分からぬ様に力を込める。
「私は…、このユルゲンシュミットと言う国がある世界ではなく、神の存在も分からず、魔力の無い世界で、200近い数の国がある中、日本と言う国で生きていた記憶があるの。」
 ツェントの品の良い笑顔は全く変わらぬまま、話が始まる。