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逆行物語 真五部~ローゼマイン~

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“マイン”の居ないエーレンフェスト



 “マイン”がいない。トゥーリ達はいるのに。ルッツは居るのに。私が幽霊として居るからだろうか? 訳が分からない。
 ルッツは今の職人にしかなれない自分の環境に不満を覚えている。旅商人になりたいと思っている。でも“マイン”が居ないから、ルッツは商人になる道が無い。
 思い詰めたルッツは町を出て行こうとして、父さんに捕まってた。…結局、ルッツは親の紹介する職人職に着いたけど……、かなりえげつないイジメにあっていた…。

 ルッツの事が気になったけど、私はフェルディナンドや孤児達の事も気になった。フェルディナンドはもう薬漬けの生活だった。孤児院は…、あの悲惨な状況だ。ベーゼヴァンスはもう昔の面影が無い。
 ベーゼヴァンスは既にゲオルギーネとのやり取りをしていた。養父様との事件を知らないベーゼヴァンスは、ゲオルギーネに同情的だった。執政的な事は理解していないが、やむを得なかったのだろうと考えていて、愚痴くらい聞いてやりたいと言う気持ちだった様だ。
 だがエーレンフェストの礎を探して欲しいと言われた時、ゲオルギーネの危険性に気が付いた様だ。情があるベーゼヴァンスは一応探すが、見付かる訳が無いと思っていた。だからヴェローニカ様に報告はしなかった様だ。
 しかし予想に反して見付けてしまい、ヴェローニカ様に敵対してしまう流れを作ってしまった。決定打を恐れ、自分の胸にしまい、もし何らかの事態が起こった時には、ゲオルギーネに助けて貰おうと秘密の手紙だけは用意していた様だ。
 城では表向いては平穏だが、内部では嫁姑の争いが劇化している。私が居ないから、この先はどうなるのか。
 下町は相変わらず。ギルベルタ商会はベンチャー企業として頑張っているけど、特別な事は起こらない。ギルド長とも関係性は昔のままだ。
 …ルッツは家族とドンドン仲が悪くなっている。

 どうなるんだろう、エーレンフェストは。
 
 御披露目。ヴィルフリート兄様は逃げ出した。私が関与していないから、ヴェローニカ様の養母様兼ライゼガング派閥縮小作戦が決行された形になる。
 只、この作戦はアウブが味方に付く事が成功条件だ。
 …養父様は許さなかった。ヴィルフリート兄様を巻き込んだ事を。そうして、ヴェローニカ様は次期アウブを歪めた罪で、白の塔に幽閉される事が決まった。
 そして…、兄様は神殿に送られた。断罪されたベーゼヴァンスの代わりに神殿長になる。
 白の塔に送るよりはマシだ、と判断されたのだ。神官長であるフェルディナンドが、廃嫡されるヴィルフリート兄様に情けを掛けた形だ。養父様の為に。
 巻き戻る前の御披露目の前後で、兄様の廃嫡騒ぎを思い出す。あの時、私が庇った形になったけど、後ろ楯を失った事と、私が自由に動いた事で、兄様の重荷に変わっていってしまったのだと解る。
 本当の優しさは、罰を回避させる事じゃなく、罰を背負う身を支える事なのだと知る。
 フェルディナンドは養父様の為にだったけど、ヴィルフリート兄様を支える道を選んだ。

 それが、私を責める光景を作り出す。

 フェルディナンドに神殿長教育を受けた兄様は、巻き戻る前の、アウブとして執政を請け負っていた兄様にどんどん近付いていく。元々能力がありそうだと思っていたけど、どうやら厳しい状況で叩かれて、目覚めて、ドンドン伸びるタイプでもあった様だ。
 私が情けを掛けた事は、養父様の甘やかしと同じだったのかも知れない。