レオとディンゴ
「え?」
「ただし体内もしくは体外でも、メタトロンに触れ続ければ所謂精神汚染が進み、ランナーの人格は破錠していく」
「突然なんですか」
「初期のOFは特にその傾向が見られ、ランナーとして乗り込んだ者にはメタトロンの体内過剰流入により、アレルギーショックに似た症状を発現させ死に至る例も少なくはない」
「初めて聞きました」
「あくまでバフラム、ネレイダム社内での研究結果だからな。地球軍側では殆ど把握してないだろうが事実だ」
「へぇ…」
「で、だ。お前は何ともないのか」
「なぜ僕に」
「ジェフティに初めて乗ったのはお前だろう。あと、此処の所乗りっぱなしなのもお前だ」
「特に気分が悪いとかそんなことはありませんが」
「頭の中に変な声とか聞こえたりしないのか」
「…ディンゴさんの方が大丈夫ですか?」
「ええー…いや、俺はまぁ仕方がなくて平気な方なんだろうが」
「仕方がないって」
「心肺機能をジェフティのエネルギーで賄ってた時か。普通に、身体ん中にメタトロンが走った。発光したのはたった2回だけだったがな」
「一度目は俺は殆ど意識が無かった。なにしろ、心臓と肺を取っ払われて二ヶ月間生死の境を彷徨ってたからな。二度目はアーマーンの時だ」
「反転した暗闇の世界で、メタトロンの脈動が俺の中にも流れて来たのを目の当たりにした。正直、恐怖以外の何物でもなかったぞ」
「そんなことになっていたのですか…あの時…」
「おう。コックピットの中じゃ、お前らには見えなかっただろうが」
「アーマーンのエネルギー中枢に入った時だ。大破したアヌビスのジェネレーターの僅かな光しか見えない中で、俺はADAの声を聴いたよ」
「ジェフティに乗っていればいつでも聴いているじゃないですか」
「そうじゃねぇよ。なんつーか…頭に響くっていうのかアレ。洗脳されるかと思った」
「…何と言っていたのですか、あの中で」
「ADAに直接聴いてみろよ。覚えているか分からんが」
「ともかく、それであの話をふと思い出した訳だ。OFに乗りこみ精神を汚染される連中は何かしら執着してた。力を欲し死に場所を求め、あるいは復讐に燃え死した人の面影を追い求めた。ノウマンなんぞメタトロンの意志とかほざいて一つに成りたがり終焉を求めていたな。お前はADAに執着しているが、乗っていて何とも無いんだな」
「…僕は、力が欲しい訳でも、ジェフティと一つに成りたいわけではありません。僕が望むのは、彼女を守りADAと共にあることです」
「ほう?」
「そもそも、僕がジェフティに乗った理由はそんな大それた意識なんてなくて、ただ死にたく無い、どこか安全な場所に、と逃げ込んだ先がジェフティなだけです」
「初耳だ」
「話す暇が無かったじゃないですか。僕は初めから軍に所属していたのではなく、民間人でしたから、戦闘兵器として扱われる事が恐かったのを覚えています。人が死ぬのも、殺されるのも、殺すのも恐ろしかった」
「大した特務軍曹様だな」
「…今でも、殆ど変わっていませんよ。だから、ジェフティに乗っていてもずっと恐ろしかったし、ADAはその頃、かなり容赦が無かったので意味が無い事だと今なら気付いたのですが、ちょっと反抗してましたね」
「どちらが?」
「僕がADAに」
「へえぇぇーーーーーー」
「すごーく疑いの眼差しを向けないでください。あの頃は僕も今よりずっと子どもでしたから、何というか一々噛み付かずには居られなかったというべきか、始終そんな感じではありました。 だから、ジェフティの力にのめり込む隙が無かったせいかもしれません」
「そこからどうやって今のお前になったのか疑問だがあえてそこは省くとして、総括は?」
「省くんですか」
「惚気しか聞かされそうに無い予感がした」
「……。一つになったら一緒に話すこともできないじゃないですか」
「なるほど」