Argyros / 銀
一瞬、真っ二つに切り裂かれるかと思われたアルだったが その素早い踏み込みが幸いし
かろうじて大剣の直撃を免れた。
スコルピオスの長大な剣先が アルを切り裂く前に分厚い甲板を捉えたからだ。
だが、威力を減衰されたとはいえ 重い大剣を背に受けたアルは
まるで虫けらのように床の上に這いつくばされてしまった。
「ぐうぅぅ・」
その衝撃に 息も出来ずにいるアルを見下ろし
スコルピオスは 再び剣を上段に構え言った。
「アルギュロス、殺すには 惜しい漢だ・・
もう一度だけ聞こう・・ 我が軍門に降るのだ」
アルは なんとか腕を突き 立ち上がろうとしたがかなわず、
仰向けになり両手足を大きく投げ出して大の字に寝ころぶと言った。
「ぐっ・あんたも・大した漢だ・・噂に聞いていたよりも・・な・・」
スコルピオスの赤い瞳が アルの蒼い瞳をじっと捉えた。
アルは ニヤリと笑うと言った。
「だが・・断る!」
「・・よかろう ならば・・ 冥府の王にでも仕えるが いい!!」
スコルピオスの剣が 今まさに 振り下ろされようとした時、横合いから鋭い音と共に矢が飛んで来た!
しかし、スコルピオスは それを瞬時に大剣で薙ぎ払うと飛び退り 二の矢に備え身構えた。
「こん畜生!」
オリオンだ! そう叫びながら 次々に矢をつがえ射ち掛けるが、
そのことごとくがスコルピオスの剣で打ち掃われ届かない。
「小僧! また、お前か!」
スコルピオスが オリオンに気を取られた隙に
俺は、黒剣を握り緊め、背後から斬りかかった!
だが、背中に眼が付いているかのように スコルピオスは難無く避けると
振り向きざまに 俺の鳩尾へ膝を叩き込んだ。
今度は 俺が床に這いつくばる番だった。
臓腑を吐き出しそうな苦痛と俺を睨みつけるスコルピオスの赤い眼に射竦められ
身体が震え恐怖に駆られたが 手にしている黒剣から何かが流れ込み
それが俺を突き動かした!
「アルに 手を出すな!」
何とか立ち上がると、未だ倒れたままのアルを庇うように、
スコルピオスの前に立ち塞がった。
もう、大切な人を失うのは嫌だ!
愛する者 温かいふれあい
屈託のない笑顔 語り明かす夜
悔し涙 他愛のない会話
殴られた頬の痛み 皆で囲む夕餉
抱き合って眠った長い夜
ブンッ・・と
何かが 唸る音がした
作品名:Argyros / 銀 作家名:時帰呼