ピエロロロ
「あ」
唐突に口を開いたフェリドくんが僕の顔を見て微笑んだ。
「ヤることやってるし、付き合っちゃう?」
何を言っているんだろうか、フェリドくんは。
ヤることやっても恋人関係に至らない人たちは無限といるし、僕らだってその限りじゃない。なにより僕はこの男が嫌いだ。
「うんうん、考えてることが漏れてるぞーっ☆」
「うん、わざと声に出して言っているからね。もう一度言ってあげようか?」
「僕のことを愛してる! って言葉なら何度でも聞きたいな」
本当何を言っているんだろうか、フェリドくんは。
──いや、嫌いな男と身体を繋げている僕こそ何をしているんだろう。
「だから僕は君のことなんて好きでも何でもないよ」
「そりゃヒドイ。僕はクローリーくんが好きだけどなー」
信じてくれないの? とでも言いたげに僕を見つめてくるフェリド君の表情は一切読めやしない。
本心なのか、はたまた偽りなのか。それとも僕が疑い過ぎなのかもしれない。
実際のところ、彼が僕を愛してくれているのかもしれない。減らず口は出会って間もない頃から何ひとつ変わってはいないのだ。表面上には一切出さず心の底ではそう考えている可能性もゼロではないかもしれないし、反して僕のことに対しては全く興味がないのかもしれない。
「ウソ言えよ」
「クローリー君こそ、もっと自分に素直になったらどうなのかな? 君の頭の中は僕のことでいっぱいだろう?」
「……うっさいな」
返答を考えれば考えるほど彼のドツボにハマっているのだろう。いつの間にか僕の頭の中はフェリド君のことしか考えていない。寝ても醒めても脳内の8割を彼が占領している。
触れたい、などと考えたことはない。
ただ最近顔も合わせず体も繋げずにいたからか寂しくすら感じてきたのは事実だ。久しぶりにこの身に得たフェリド君の温もりは実にあたたかくて、体に打ち付けられた楔を愛でることすら苦ではなかった。
「ね、僕はウソじゃない。好きだよ、クローリー君」
こうしてまた僕はクローリー君一色に染まってしまう。普段からフェリド君のことで頭がいっぱいなのだ。本人を目の前にしたら容易く飲まれてしまう。
寄せられた唇を何の疑いもなく受け入れた。先に体を許しているのだ、キスのひとつやふたつ構いやしない。
ならは言葉だけの関係性もまた、彼の思うがままに受け入れてやろうじゃないか。
「……ンッ…っはっァ……い、いいよ。付き合ってあげる」
「クローリー君、ありがと」
アハッと微笑むフェリド君からは相変わらず本心が読めない。
僕はきっと永遠に踊らされるだけなのだろう。心からは嫌いになどなれない、道化師のようなこの男に。