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第1章・1話『幻想招き』

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東方星写怪異録 第1章・1話


真っ暗にも等しい部屋だった、中央に誰かが立っていた。
その者は指を忙しなく動かしながら呟き、一息置いて
???「時は来た、今こそ輪廻の混沌をかの星にっ!!!」
そう言い高笑う声と程なくして、足元が光り始める。
光は魔法陣に似たものだった、部屋の中央に描かれていた物が消えると付近の魔法陣が呼応するかの様に光り……すぐに部屋全体を覆うようにすべての魔法陣が光っていった。


―幻想郷、上空―
霊夢「……今日はやけに静かね」
博麗霊夢はいつもの日課である散歩を兼ねた見回りを行っていた。
夜に行動する妖怪達も少なくはない……はずなのだが、今日はやけに出会う妖怪が少なかった。
霊夢「まあ、異変を起こしたら弾幕で退治すればいいし……結局なのよね」
溜息をつき、帰ろっと呟いたところで霊夢は夜空の異変に気付いた。
夜空を覆いかねないほどの影、知っている影を扱う妖怪のそれとは全く違う影だった
霊夢「(ルーミア?でもあの子のとは別みたいね、となると……)誰の仕業かしら、まあいいわ出てきなさい」
???「生憎と、あなたはお呼びでは無いのですが……ね」
影が震えるとその中から声が響く、霊夢は一種の通信手段と思い話を続ける事にした。
霊夢「そこの影の向こうに居るアンタが大元って訳?一体何をするつもり?」
???「……お答え出来かねます、貴方には関わりない事」
霊夢「随分な物言いしてくれるじゃない、博麗の巫女に向かって……ねっ!」
霊夢が睨みつけると同時、陰陽玉から影に向け弾幕が放たれる、避けるなり防ぐなりの行動を起こせば次はスペルカードを問答無用で打ち込む、そう思っていた霊夢だが
ゴゥッと吸い込まれる音と共に弾幕が……更には陰陽玉も一つ、影の中に消えていった。
???「素性の知れない相手に無策で対峙してはなりませんよ、私の良心により加減はしますが……無事だと良いですね」
霊夢「……っ!?」
唖然とする霊夢が見たのは影の中から見えるひとつの光だった


―同時刻、とある外の世界―
しとね「……あれ、何だと思う?」
そう呟きながら、見上げる夜空には……影が覆い尽くされていた。
近くを歩く人や車を運転している人も、異変に気付き次々と足や車を止め夜空を見上げ始めていた
しとね「このまま、此処に居ると危ないか、移動しようか」
そういい、人が少ない脇道へ避けた彼女の後ろで誰かが「せ、世界の終わりだ……終わりが来たんだっ」と大声で叫ぶ。
得体の知れない状況下、不安に駆られた人達をパニックに落とすにはその言葉で十二分だった……瞬く間に伝染し、我先に安全な場所は何処かと考え逃げ始める人。
他の人を突き飛ばし倒れ込んだ人を踏みつけ、前を行く人の服を引き、殴り倒してでも助かろうとする人達。
そんな状況をいち早く抜け出していたしとねは、近くの建物の屋上に居た。
出入口近くのベンチに座り、外の喧噪を耳にしながら
しとね「こんな状況下でも平然としてられる私って何だろうね?」
紫「少なくとも逃げ惑い怯える人間とは程遠い者、かしらね」
独り言に近かったのだが……声のする方へ顔を向けると、眼下の状況を見ている見知らぬ格好の女性が立っていた。
しとね「えっ……と?」
紫さん「ご紹介が遅れました、私は八雲紫と申しますわ……
以後、お見知りおきを」
誰、と問いかける前にその女性が名乗る。
金髪、に……異国とも違う見かけない衣服、相手の全てを見抜く様な目。
そして、人間とは思えない気配。
しとね「八雲さんね、貴方程の方が私なんかに何の用ですか?」
紫さん「紫で構わないわ、しとね。そうね、強いて言えば協力してほしいの」
協力、ねぇ……と、終始笑顔の紫を見つめしとねはそう呟く。
紫さん「ええ、異変……異常事態の解決を【協力】してほしいの」
しとね「【強制】……の間違いなんじゃ?」
紫さん「どう捉えるかは、しとね次第よ」
しとね「まあ、正直どちらでも構わないんですけどね」
紫はしとねがそう言うのを知っていたかのように淡々と答えていた。
それは何より紫の見た目からも、相手に多く教える様な事をあまりしないのだろう。
紫さん「あまり時間の猶予も無さそうね、詳しい事は向こうに着いてからで良いかしら?」
しとね「ええ、問題ないですよ」
紫さん「それじゃあ……歓迎するわ、しとね。ようこそ“幻想郷”へ」
そう言う紫の背後が縦に切れ、そこから開いた空間が瞬く間に紫としとねを包み込んだ。


―幻想郷、博麗神社前―
思わず目を閉じていたしとねは、紫の気配が無い事と周囲の空気が変わった事に気付き恐る恐る目を開けた。
しとね「……えっ?」
しとねの目の前に広がっていたのは……所々老朽化が進んだ神社だった。
とりあえず紫を探すついでに神社以外には何か無いのかと、探してみたしとねだったが……
しとね「紫さんは居ないし、これも普通の神社みたいだし……」
結局、最初に立っていた所まで戻りしとねは何気なく空を見上げ、その空に月より二回りほど大きな星が浮いているのに気付いた。
しとね「(月じゃない……かなり大きいけど星だよね、それにしても地球みたいな)」
空に浮かぶ地球の様な星に気を取られていたしとねは、その視界の隅に近づいてくる二つの物体に気付いていなかった。

────第1章・1話『幻想招き』────