第1章・5話『氷精妨害 参』
―湖の上空―
風を切る鋭い音と、何かが砕け散る音が何度も湖から響く。
チルノ「……」
氷の剣を作り出したチルノは幾度も切りつける……がしとねはそれを魔力を纏わせた手でこと如く砕いていた。
しとね(ジン)「隙が大きいぞ、氷の妖精よ」
そうしとねが言いながらチルノの腕を蹴り上げる。
チルノの手を離れた氷の剣は宙を舞い、しとねがそれを取りチルノへ投げ返すが、チルノへ当たる前に氷の剣は砕け霧散する。
チルノ「……チッ」
しとね(ジン)「(埒があかんな……こうなれば一か八かの博打か)」
暫く睨み合っていたが、チルノに向けて突進をしとねがする。
氷の剣を作りチルノはしとね目掛けて切りつける。
チルノはしとねが氷の剣を砕くと思っていた、だから反対の手にも氷の剣を直ぐ作れる様にしていた。
しかし、しとねは氷の剣を砕かずチルノの手を掴み振り下ろすのを止めていた。
チルノ「!?」
予想外の行動にチルノは一瞬だけ動きを止めてしまう。
しとね(ジン)「痛いとは思うが我慢せよ、氷の妖精よ!」
反対の手を固く握り締め、しとねはチルノを殴りつける。
チルノが持っていた氷の剣が霧散する、それを見たしとねは掴んでいた手を離す。
チルノ「ガアァァッ!」
最早獣と呼べそうな声でチルノがしとねに向き直す……がしとねはそんなチルノの額に手をかざし目を細める。
しとね「ふむ……これが元凶か」
バキンッ……と何かが割れるような音がし、チルノの動きが止まる。
チルノの姿が女性の姿から少女へと戻り、しとねがかざしていた手を下ろすとゆっくりとチルノは目を閉じ、その場に倒れ込む。
魔理沙「チルノ……しとね、何したんだ?」
魔理沙はしとねが手にした物を見た、それは禍々しい色合いとオーラを持つ何かの生物の鱗の様だった。
しとね(ジン)「────龍の鱗だ、今回の異変……我らが居た『外』から来た者の策略かもしれん」
魔理沙「それじゃ、紫が他にも誰か招いてたって事か?」
魔理沙には信じられなかった、紫は幻想郷を誰よりも大切にしている。
しとね(ジン)「あの賢者がそうしたとは考えれん、ならば……無理にこじ開けて来たか」
魔理沙「────まさか、霊夢が行方知れずなのって……」
大結界を霊夢が管理しているなら真っ先に狙い、大結界に綻びが生まれた瞬間に潜り込めば気づかれる可能性は低いかもしれない。
しとね(ジン)「確証が得られぬ、留めておくしかない」
魔理沙「あ……ああ、それと話しが変わるんだがいいか?」
しとね(ジン)「?」
魔理沙はしとねを見つめ、チルノにやられる寸前……助けに来てくれた時から感じた疑問を口にした。
魔理沙「口調と雰囲気が違う気がするんだが」
すると……しとねは少し考え込み。
しとね(ジン)「貴様は、先程の龍を見たか?」
魔理沙「ああ」
しとね(ジン)「今はその龍が意識を表している……と言って、伝わるか?」
魔理沙は頷きながら、多重人格みたいなものなのだと納得した。
しとね(ジン)「そろそろ戻る」
魔理沙「えっああ、うん」
そう言いしとねは目を閉じ、開く……一瞬だったが、その目と纏う雰囲気も穏やかな物に変わっていた。
しとね「あはは、驚かせちゃったかな」
魔理沙「いや、大丈夫だ……それよりも」
そう言いながら魔理沙は横を向く、しとねも吊られてそちらを向き……
チルノ「へへ〜……アタイ、サイキョー……サイキョーなんだ、ぞ〜」
氷の妖精が気持ち良さそうに寝言を口ずさんでいた。
魔理沙「さて、どうするかこいつ」
しとね「まあまあ、この子はあっちの子に任せましょう」
そう言われた魔理沙が目を向けると、大妖精がこちらに飛んでくる所だった。
魔理沙「そうだな」
しとねと魔理沙は大妖精にチルノを任せ、紅魔館を再び目指す。
―紅魔館―正門前―
ドゴォッ……と轟音と共に紅魔館の門番、紅美鈴は数十メートル後方へ吹き飛ばされた。
美鈴「はぁ、はぁ」
美鈴は肩で息をしながら飛ばされた方へ向く。
人……女性が立っていた、その女性はただ静かに構えていた。
美鈴「赤い……装束」
博麗の巫女ではない、あれは決して霊夢さんじゃない。
美鈴は心の内でそう言いながら立ち上がり、叫びながら女性へ走る……が────
もう一度轟音が鳴り響く、叫ぶ声も無く……ただ誰かの足音が遠ざかっていく音が紅魔館に響き渡る。
────第1章・5話『氷精妨害 参』────
作品名:第1章・5話『氷精妨害 参』 作家名:U46 410n