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溝口ひろな
溝口ひろな
novelistID. 65006
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曇天のした

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 曇天が晴れて早一年。鉛色の空が広がる梅雨の季節が巡ってきた。
 ごくごく当たり前である時の流れにさえも不思議と肩を落としてしまう。大蛇を消滅させた後でさえも青空を覆う厚い雲を見ると彼の存在を思い出すからだろうか。
 ともに過ごした記憶は一生忘れるはずがない。色褪せてしまう可能性はあったとしても、この胸に刻み込まれた大事な家族との思い出を失うはずはなく、ささいな拍子に俺ら家族のもとで確かに暮らしていたアイツが脳裏を過る。
 あの日、復活した大蛇を消滅させ空丸を救った日。そして家族だったはずのひとりが俺ら兄弟の前から去った、あの日。
 弟らにとっては兄であり、俺にとっての親友で、曇家の一員であったはずの金城白子は今どうしているのだろう。崖から落ちてもなお生き残り、風魔の頭領、風魔小太郎として何処かで彼らを率いて暮らしているのだろうか。
 たまには顔を見せて欲しいとは無駄な望みであることには違わないと思いつつも、彼の存在について意識を向けてしまうのが原因だろう。

「あーあ、やってらんねーよなぁ……」

 片時も忘れることのできない存在について考えはじめたら一日はあっという間だ。
 雨に濡れた大木を見つめながら、心が鉛のように重たくなってしまう。笑顔を浮かべていなくてはならないはずの長男にも関わらずひとりになると不意に虚無感に襲われてしまうのだ。
 愛した親友を失ったことで生じた心の中の穴は深く、大きい。
 今まで幾度となく見上げてきた神木でさえもが涙しているようだ。俺の代わりに泣いてくれているのだろうか? この木が。

「お前がいないと……俺は──」

 涙を流してくれる木に弱音を吐き続けて早くも一年の月日が経った。まだ涙は枯れない。枯れることを知らなかった。弟の前で気丈に振る舞えば振る舞うほどもうひとりの俺が子供のように泣く。
 親父たちへの気持ちを告げお墓の前で泣いた時以来、誰の前でも泣くことはなくなった。
 自分だけがまだ必要以上に金城白子という男の、大切な家族の、親友の失踪を引きずっている。

「なぁ、白子っ……!」

 俺が涙を流すことはない。代わりに大木が大量の涙をあふれさせていた。大空からこぼれ落ちる雨が何度も木を強く打ち付け、轟々とした雨音を響き渡らせるのだ。
 大の男の代わりに。

「白子……!」

 兄貴は泣いたりしない。ただ笑い、弟と居候を元気づける存在でなくちゃいけない。
 誰から何と言われようとも昔から決めていたことを止めるつもりはない。今はもう体が、顔が、思い通りに動かなかったとしても心だけは兄として弟たちの前に立ち塞がる壁、そして頼りがいのある兄貴だと思い続けていて欲しい。
 既に空丸も宙太郎も俺なんかよりずっと遠く、先を歩いて行ってしまっているけれど心の拠り所として機能していたいのだ。それが惨めな姿になってしまった兄貴にできる最後の願いでもある。
 
「こんな俺を見たら笑っちまうよなぁ……白子」

 曇家の当主として新たに走り出した空丸。秘密裏に白子を探し出そうとしている宙太郎を前にして、俺はただ笑うことしかできない。この残された体では白子を探せず、ただ思い出に縋ることしかできないのだ。
 自分に対してながらも強く呆れてしまう。

「……馬鹿、野郎……」

 俺は同時に後悔をしていた。妃子と南下した際に出会した爺さんは今思えば白子だった。再会を果たしていたのだ。
 当時白子として認識することがなかった俺は、今になって肩を落とす。

「帰ってきてくれよ」

 今までの間に何度も願った詞はいつしか言霊となり叶いやしないだろうか。
 二度と自力では雪道を歩けないこの身では昔のように倒れ込む白子を抱えることはできず、見つけ出すことさえできない。
 今度はお前が俺を見付けだしてくれ。俺はここにいる、忍の白子にとって、いや曇家の家族だったお前ならすぐに見付け出せるはずだ。

「白子」

 毎年家族4人で眺めていた大木の目の前で待っているからな。
作品名:曇天のした 作家名:溝口ひろな