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第1章・8話『小さな覚悟、無心の決意』

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東方星写怪異録 第1章・8話


―???―
何も無い真っ白な空間でしとねは寝そべっていた。
バサァッと音がし、ジンが覗き込むように視界を塞ぎそのまま語り掛けてくる。
ジン「……生きているか」
しとね「何とか……ね、そっちは?」
ジン「あの者の妨害で無傷だな」
しとねはジンの問いかけにぼんやりと応え、ジンの方も問題ないようだった。
しとね「暴食……『外』から来たって言ってたね」
ジン「外が今どんな状況かを知る術は無いぞ」
しとねの言葉にジンがすかさず答える。
しとね「まあ、携帯なんて物も無いだろうし、仕方ないよね」
しとねはジンの口元を優しく撫で、ジンは目を閉じ身を任せていた。
ジン「……何とかせねばな」
しとね「そうだねー」
ジンは撫でていたしとねの手から離れ。
ジン「奴を殺すには、存在ごと消し飛ばすしか無い……殺れるか?」
しとねはジンの言葉を聞き、身体を起こしながら────
しとね「それが、それしか無いのなら……私は敵でも味方でも、殺すよ」
そう言うしとねの瞳に……感情というものは映らなかった。


―紅魔館―中庭―
斧を振り下ろした暴食は、斧から伝わる禍霊夢を斬った手応えを感じる筈だった。
しかし、感じたのは斧からではなく腕からで……しかも斬った手応えでは無く、逆に斬られた感覚だった。
暴食の目の前には、自分が振るっていた斧を持つ仕留め損ねたしとねの姿……
ゴシャッと音と共に暴食の腕が落ち、その腕が赤黒い煙のようになって消える。
恐る恐る、暴食は斧を手にしていた筈の腕へ視線を移す────
無かった、禍霊夢に切り飛ばされた時と違う点を上げるとするなら。
暴食「ア?グっ、グアッア、い、痛い?何故っ……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
動揺を隠せない暴食は数歩後ずさろうとする────がしとねはそれを許さず。
しとね「逃がしませんよ」
しとねは斧を暴食へ向かって投げ、腹へ斧が刺さり暴食は威力を殺せず紅魔館の玄関から中の広間へバウンドしながら転がる。
暴食「(痛い……痛い、痛い痛い痛い!逃げ、逃げなければ死ぬ……このままではこ、殺される!!)」

しとねは玄関から広間に倒れた暴食を見つめる。
禍霊夢「奴は、死んだのか?」
禍霊夢が後ろから中を見つつ問い掛ける、しとねは暴食を見ながら首を横に振り口を開く。
しとね「元々魂だけの存在……みたいなもので肉体を捨てて逃げたみたいです、転がっているアレはもう骸です」
禍霊夢は骸に近寄り、手を合わせ何かを呟く……すると暴食の骸が腕と同じように煙となって消え、ガランっと斧がその場に落ちる。
禍霊夢「こうすれば奴も手立てが無くなるだろう?」
禍霊夢は意地悪そうに笑う、しとねは近くから物音がしそちらへ振り向くと。
魔理沙「しとね!無事か!?」
魔理沙が叫びながら箒でこちらへ向かって来ている所だった。
しとね「黒幕には逃げられた形ですが……何とかですね、そっちはパチュリーさんに会えました?」
魔理沙「そうか、パチュリーは小悪魔と一緒にレミリア達と合流するとさ」
魔理沙はしとねの後ろに立っていた禍霊夢を見て驚き、動きが止まる。
しとね「魔理沙……さん?」
不思議がるしとねが声を掛けるとようやく魔理沙が口を開き────
魔理沙「霊夢?……いや、違うのか?」
禍霊夢「博麗霊夢の姿を象ってるだけだ、霧雨魔理沙」
魔理沙「……霊夢は何処だ」
魔理沙は禍霊夢を睨みつけ、問い掛ける。
禍霊夢は溜息をつき。
禍霊夢「……幻想郷には居ない、恐らく『外』だろうな」
その言葉を聞いた魔理沙は驚き、睨むのをやめ禍霊夢に問い詰める。
魔理沙「どういう事だ?あいつが『外』にどうやって!」
禍霊夢「私が知ったことか」
たった一言で一蹴された魔理沙は、帽子を深々と被る。
禍霊夢「さて、奴の居場所を見つけなければな」
魔理沙「……探知系の魔法は使えないぞ」
そう言い禍霊夢は魔理沙へ視線を向けるが、魔理沙は下を向いたまま答える。
禍霊夢「パチュリー・ノーレッジに合流するとしても場所が分からなければ意味が無い」
魔理沙「そもそもレミリア達が何処に捕まってるかも分からない」
魔理沙と禍霊夢の会話を聞いていたしとねだったが、おもむろに────
しとね「要はパチュリーさんとレミリアさんの居場所さえ分かれば良いんですよね」
禍霊夢「それが分かれば苦労はしないがな」
魔理沙「阻害系の魔法も使われてるんだ、簡単には見つからないぞ」
2人の言葉にしとねは微笑み────
しとね「スペル!招符〘ホロウインビテーション〙」
そう言ったしとねの影が蠢き始め、大きさも疎らで手足が無い兎の様な無駄に可愛い影の塊が十数体、足下に量産される。
魔理沙「……お、おおお」
禍霊夢「……」
驚く2人を余所にパチンっとしとねは手を叩き、兎擬きを注目させる。
しとね「皆さんに探して欲しい方々が居るので、捜索をお願い出来ますか?」
しとねの言葉がわかるのか、兎擬き達は各々頷き一体、また一体と散り始める。
魔理沙はそこそこな速さで駆けていく兎擬き達を見ながら。
魔理沙「こいつらはパチュリー達を知ってるのか?」
しとね「とりあえず、誰かしら見つけたら知らせてくれますし……簡単な方がこの子達も働いてくれますから」
そう言う物なのか、と魔理沙が考えていると……いつの間にか肩に兎擬きの一体が乗っていた。
兎擬き「……(ㅇ ㅅ ㅇ)」
魔理沙「なあ、しとね……こいつは良いのか?」
魔理沙が肩に乗った兎擬きをしとねに教えると。
しとね「その子は連絡用ですよ、見つけても教えてくれる子が居ないとダメですし」
魔理沙「私の肩じゃなくてもいいんじゃ……ってその斧どうしたんだ?」
禍霊夢「敵が所持していた武器だ」
禍霊夢が持っていた斧に魔理沙が気づき、禍霊夢は仕方なく事の経緯を話す。
魔理沙「……大丈夫なのか、しとね」
しとね「平気ですよ────」
禍霊夢「そもそも、貴様を人と定義づける事が出来ぬがな」
しとねの言葉を遮り、禍霊夢は喋る。
禍霊夢「貴様、人間では無いだろう?」

────第1章・8話『小さな覚悟、無心の決意』────