炭酸水と空のかなた。
うそだよ、こんな世界、ぜんぶ、ぜんぶうそだから。
だからだいじょーぶ、直ぐに忘れてしまえるのさ。そいつは青空の下で、にっこりと微笑んでそう告げた。錆びたフェンスはぎいぎい軋んで、ひどく耳障りである。しかしそいつはそんなことは気にも留めない様子で、とても快活なこえでからからと笑ってみせた。それは、ぱん、と弾けたような青空に、ひどく綺麗に溶けていて、やたらと目に沁みた。
こんな美しい青空も、ぜんぶイツワリで、僕らを騙そうとしている。ひどく綺麗で、美しい世界だ。そんなもんはだいきらい。ひどく疎ましいね。だからだれに騙されようと、惑わされようと、どうだっていいんだ、そんなの。嘘の海の中で、いくらまたそれを重ねられたとしても興味ない。どーでもいーよ。そいつは、でたらめを述べるようにべらべらと、饒舌に語る。それを俺はただただぼおっと眺めて、空を仰いだ。水彩絵の具を一粒垂らして、それを薄く伸ばしたような、そんな透けて綺麗な青。そこに細長く雲がたなびいて、コントラストは明確だ。俺はそこに、す、と手を伸ばして、また、だらりと落とす。ああ、だるい。
唐突に、そいつはつかつかとこちらへ歩み寄ったかと思えば、その手に持っていたサイダーのペットボトルを、俺の瞼に押し当てた。だから、ね?俺は、だいじょーぶ。だいじょーぶ、だ。ぜんぶ信じてなんかないよ。疑っているんだ。信じてなんかやるもんか。だいじょーぶ、だいじょーぶ、だいじょーぶ。この世界は、ぜんぶ、嘘だから。炭酸の泡が、ぷちぷちと浮いては爆ぜる。視界はぐらぐらと揺れて、光を反射して、綺麗だ。ひんやりとした気持ちよさが、瞼を通じて眼球に届く。う、そ。そればかりが脳内では転がって、反響していた。
何故か、泪の香りがした。そいつが、泣いているかのような錯覚に陥った。こえは震えても掠れてもいないし、そんな素振りも見せないのに、何故か、無性にそう思った。くらくらと、泪の匂いが強まる。視界は絶えずぐらぐら揺れる。泡は生まれては爆ぜる。脳味噌は、焼け付くように熱かった。ぜんぶ、うそ、だったら。
きいんと冷たい雫が、ペットボトルの側面を流れ落ちた。
(それは泪にも似て。)
作品名:炭酸水と空のかなた。 作家名:うるち米